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アルコール依存や薬物依存を抱えるお母さん向け支援

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.96 ソーシャルワーク・タイムズ vol.162

· 非営利組織,メンタルヘルス,貧困

先日、我が家の子供たちも通っている学校を取りまとめる、トロント教育委員会(TDSB)が、アメリカへの修学旅行禁止を決定しました。

ご存知の通りカナダはアメリカと国境を接しており、トロントからはバスなどを使っても数時間でアメリカに行くことがでます。そのためカナダから、アメリカに修学旅行に行く学校も多いのです。

今回のアメリカへの修学旅行禁止決定の理由は、カナダ在住の生徒が、トランプ政権が出したイスラム

圏6カ国を対象とする入国禁止令の影響を受ける可能性があるためです。

トロントの学校には様々な国の生徒が在籍しています。修学旅行であっても、アメリカ入国できない可能性があるのです。トランプ政権の影響を、カナダからでも感じる今日この頃です。

さて、トロントには様々な子育て支援プログラムがあります。日本でも導入されているノーバディーズ・パーフェクトもカナダ発祥で、今はトロント市保健局で助成される公式プログラムにもなっています。そのため、トロントのいろいろな場所でいろいろな非営利団体が実施していて、参加費無料です。

今回は、多様な子育て支援プログラムがある中でも特に珍しいと言える「アルコール依存や薬物依存のあるお母さん向けのプログラム」を紹介したいと思います。

その名も「Breaking the Cycle(BTC)」。直訳すると「連鎖を断つ」。

主催しているのはMothercraftという子育て支援を行う非営利団体です。妊娠期から6歳の子どもをもつ女性を対象にしていて、プログラム専用のセンターがあり専門スタッフが常駐しています。

薬物やアルコールへの依存症をもつ女性は、妊娠中に薬物やアルコールを摂取することが子どもの発達に影響するだけでなく、出産後に子どもの養育が困難になる場合があります。

そのためこのセンターでは、女性の回復、養育能力や環境の向上、子どもの健やかな成長、親と子の関係の構築などを目的として、依存症を抱える女性に対し、育児にまつわる様々なプログラムを行っています。

例えば、正しい知識を得られる教育的なプログラム、自尊心を上げたり円滑なコミュニケーションを学ぶライフスキルプログラム、依存状態から抜け出すための回復プログラム、料理を学ぶクッキングクラブ、医師が健康診断や診察をしてくれる出張クリニック、専門家によるカウンセリングサービスなどなど。

センターにいるスタッフはソーシャルワーカー、心理カウンセラー、地域で活動を行うアウトリーチワーカー、提携する医師など他職種で、お母さんと子どもの両方がサポートを受けられます。

参加者は貧困の状態にある人が多いため、朝ごはんやお昼ご飯を提供したり、センターにくるための交通費(トークン)の支給や、子どもの洋服やおもちゃなど必要なお下がりがもらえる仕組みもあります。

ここでは「ハームリダクション」の考え方を採用しています。センターやサービスの利用を、完全に薬物をやめた方だけに限定するのではなく、やめる過程にあるけれども、今も依存状態にある方を対象としているからです。ただ薬物を完全に止めていなくても良いですが、「ハイ」な状態である場合や酔っている時には、この場所にくることはできません。

興味深いことは、ここに通って来る女性には子どもがいるのですが、多くの場合、現在の子どもさんが一人目のお子さんではない、ということです。すなわち上の子どもがいる、ということです。

多くの方が、以前に子どもを児童相談所(CAS)によって保護されたり、児童相談所の関与した経験があるというのです。

オンタリオ州では法律で、虐待があったり親に養育能力がないと判断されて一時的に子どもが保護された場合、一時的に里親またはグループホームに移されます。そして一定期間(6歳以下は1年間、6歳より上は2年間)の間に、状況に回復が見込まれない場合、親権が停止されます()。子供を不安定な状況に長く置かないこと、安定性、永続性「permanency」が重視されているからです。

 

親の親権が停止された場合、社会的養護の元に置かれ、里親の元での養育が継続されたり、養子縁組がなされたりします。オンタリオ州では、社会的擁護の元に置かれることをCrown wardと呼びます。

ちなみに社会的擁護の元に置かれていても、養子縁組をしたとしても、生みの親と交流することが推奨されています。子どもが自分のルーツを知ることは、精神的な成長やアイデンティティを構築する面でも必須だと考えられているからです。

このように、以前に子どもが保護された(「子どもを取られた」と表現する人も多い)経験のある女性の中には、今のお子さんが「取られないよう」、支援につながっているという人もいるそうです。

BTCに定期的に来ていることは、ちゃんと専門家とつながっている、依存から抜け出す意思がある、子どもに適切な養育環境を整える過程にあったりその意思がある、ということを児童相談所に示すことができるのです。そのため児童相談所が介入していても、すぐに子どもを保護する、という流れにはなりにくいというのです。

以前「子どもを取られてしまった」経験をしているクライアントは、専門職に対して悪い印象を持っている人も多いといいます。スタッフによる介入を拒否する人や、協力的でない人もいます。特に児童相談所のスタッフには怒りの感情を持っているもいます。

 

そのためこのセンターでは、なるべくクライアントが支援につながりやすいように、スタッフの対応を気をつけたり(言葉使いやコミュニケーションの仕方)、家具の配置や照明などにも考慮して、暖かい雰囲気作りに努めたり、クライアントとスタッフとの信頼関係の構築につとめているそうです。

なお、このプログラムには「アウトリーチワーカー」が配属されています。

彼女は実際に、ホームレスシェルターや、無料で食事を出すセンターなど地域に出向いて行って、妊婦さんに見える女性に声をかけて必要な人にサービスにつなげるそうです。

今ではそういった場所のスタッフとも関係ができていて、BTCのサービスが必要そうな女性がいた場合には、電話などで連絡をくれるので、そこに駆けつけるそうです。

 

ちなみに、妊娠の初期に関われた場合には、薬物やアルコールの赤ちゃんへの状態も少なくできるだけでなく、女性もその後の依存状態から回復したり、養育環境が改善する可能性が高いという調査結果が出ているとのこと。そのためなるべく早い段階で介入ができるように努めているそう。

このプログラムは、カナダのソーシャルワークのさまざまな実践、多職種連携、他組織とのパートナーシップ、「ハームリダクション」の考え方、積極的なアウトリーチなどが積極的に採用されていることがわかります。

最後に、この「依存症を抱える女性に向けた子育てプログラム」は、アルコールや薬物依存という問題が、経済的貧困(やそれに伴う住居の問題、学歴・職業などの社会階層)、関係性の貧困、人種・民族、そして、もちろんジェンダーなどさまざまな問題が複合的に絡み合っている社会を写し出しています。

このプログラムは、子育て支援の中でも先進的な取り組みをしているという風にも言えますし、残念ながら、それだけ社会の中に薬物依存やアルコール依存が広がっている、とも言えるでしょう。

Breaking the Cycleの概要はこちら

Breaking the Cycleの調査報告(2014)はこちら  

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