社会的弱者に関わる仕事に従事するためのスクリーニングチェック

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.99 ソーシャルワーク・タイムズ vol.165

· 制度政策,児童・教育

2017年、日本で小学生の女の子が殺されて遺棄されるという痛ましい事件がおきました。

 

この事件を受けて、駒崎弘樹さんが「小児性犯罪を減らす、たった1つの方法」というタイトルの文章の中で、それに関連した犯罪を防止するには「性犯罪履歴」をボランティアに求めることであると述べています。

http://www.komazaki.net/activity/2017/04/004943.html

 

(この文章の中で容疑者として逮捕された人に対して有罪が確定したかのような記述の是非についてはここでは置いておきます。)

 

上記の文章の中で紹介されている「犯罪履歴の照合」に近い制度が、カナダにもあります。

 

それが就職の際や、特定のボランティアや福祉や医療分野で実習をする場合に求められる「police record check」(犯罪歴)や「Vulnerable Sector Screening/Check 」(社会的弱者分野スクリーニングチェック)です。

 

Vulnerable Sector Screeningは、子どもや高齢者など社会的に立場が弱くなりがちな人に関わるボランティアや実習、仕事の際に必要となります。

Vulnerable Sector Screeningの中には、police record checkに記載されている犯罪歴に加えて、警察が関わった事項があるかどうか(家庭内暴力などを含む)についても記載されるそうです。

 

申請は自分が在住している地域の警察署に行います。カナダ全土の記録を調査した結果が、2週間から1ヶ月ほどで本人に郵送されてきます。この結果は本人にのみ開示され、それをボランティア先などに提出するかどうかは本人の意思となりますが、開示しなければボランティア等をはじめることはできません。

取得にかかる費用はトロント市の場合、ボランティア用は20ドル、仕事用は65ドル。

この書類の取得にはお金と時間がかかるので、ボランティアをすることに対する抵抗感が上がるという側面があることは否めません。

 

なお、これらの証明書に記載されている一部の犯罪の履歴は、その程度に応じて数ヶ月から約10年で犯罪履歴を取り消すことができる制度がカナダにはあります。例えば若い時に犯罪を犯した人が将来、就職する際には取り消しの申請をするということがよくあります。就職支援サービス組織がこの制度について教えてくれることもあります。

 

ただし「性犯罪」は取り消しの対象にはなりません。なお精神疾患等により刑事責任がないとされた事件については、犯罪歴には記載されません。

 

このような性犯罪を犯した人が子どもに関わる仕事やボランティアにつくことを防ぐための制度はあるのですが、実際には完璧というわけではありません…。

これはあくまで、過去に犯罪歴やその記録がある人のみが記載されるからです。

 

また、どのボランティアに提出を求めるかどうかは、団体に任されている部分も多いのです。

ちなみに、カナダにもPTAのような活動がありますが、これはpolice checkは求められないことが多いです(私は求められたことはありません)。

 

さらにこれは、カナダ国内の記録のみを照合しているので、カナダに渡航したばかりの人や、留学生、ワーキングホリデーの方も書類を取得することはできますが、実際にはほとんど意味がない(けれども取らされる)という現実もあります。

 

さらにカナダでは比較的簡単に名前を変更することができます。オンタリオ州では名前の変更の際に指紋の照合をしないということもあり、犯罪歴のある人が名前を変えて犯罪歴が公にならないようにしていることも指摘されています。

 

犯罪歴を提示することは、犯罪を減らす「たった1つの方法」でも、完璧な方法でもないですし、実際にこの制度がある時とない時での犯罪の発生率を測定していないのでその効果はわかりません。

しかしこの制度があることによって、犯罪歴のある人が子どもや高齢者ケアなどの特定分野の仕事につくことを遠ざける、スクリーニングの役割を担っているとは言えるかもしれません。

 

日本でもこのような制度が作られるとしたら、何をどこまで記載するのか、過去の犯罪の取り消しはできるのか、社会的な不平等がおこならないようにするには…など沢山の検討課題が考えられます。