トロントの老人ホーム:日系人・日本人フロア

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.106 ソーシャルワーク・タイムズ vol.180

· 高齢者

2017年8月現在、私はトロントの老人ホームに勤務しています。日本でいうと、いわゆる特別養護老人ホームのような公的なホームです。

日本の老人ホームと似ているところもありますが、全然異なるところもあります。

 

私の勤めている老人ホームでもっとも特徴的なのは、カナダなのに入居者さんとスタッフがほぼ全員中国系移民ということではないでしょうか。

 

実は中国系の老人ホームなのです。

スタッフの構成で日本と違うなと思うことは、明確な役割分担が行われているため様々な職種がいて、多職種での連携が行われていることです。

日本の老人ホームでは介護職と看護師が主にケアを担っていると思います。さらに生活相談員、OT、PT、医師、ケアマネというところでしょうか。

今、私が勤務している施設(250床くらい)では、各フロアの介護士と看護師に加えて、ソーシャルワーカー(2名)、理学療法士(6人くらい)、作業療法士(4、5人)アクティビティ担当スタッフ(6人くらい)がいます。加えて、宗教・精神的ケア担当スタッフ(1名)が常駐しています。また、アートセラピー、音楽療法などの担当者が外部からきて、週に数回セッションを行います。医師は各フロアに1名の担当医がいて、週に1回往診に訪れます。(希望者には歯科のサービスもあります。目の検査、足の爪を切ってくれる専門家も定期的に訪れます)

さらに介護士の中でトレーニングを受けた人が「BSO(Behavioural Supports Ontario)」として働いています。これは認知症などによる行動に対して対応する専門的なスタッフです。(オンタリオ州から独自予算が出ていることを示すためにOntarioが付いていると思われます…)

具体的に何をしているかというと、認知症などにより不安感が強い方や周辺症状が強く出ている方のサポートを1対1で行います。

話をしたり、散歩したり、落ち着くようなアクティビティを行ったり、パズルやipadなどを使うこともあります。

また、別の方の部屋に入ってしまう方がいれば、それを防止するために工夫したり。例えば自分の部屋にわかりやすい表札や目印をつけたり、入って欲しくない場所の前に黒いシートをひいたり(穴のように見えるのでそこを越えないようになるとか)、マジックテープで布のテープをしたり。他の方にも違和感がないように、かつ簡単な方法で、ご本人の負担がないように行動が変わるように工夫しています。

実はこの施設には日本人・日系人の方の専用ユニット(25床・1フロア50床)があり、私はそのフロアのレクリエーション・アクティビティ担当スタッフをしています。かっこよく言うなら、レクリエーショナルセラピーです。

私のフロアの入居者は半分は香港系中国人の方々でなので、もう一人中国語を話すスタッフがいます。プログラムによって一緒にやったり二つに分けたりしてやっています。
アクティビティ担当スタッフというだけあって、介護スタッフとは違い、基本的にアクティビティのみ担当します。

勤務は基本9時から5時まで、1日に4つか5つのアクティビティを準備します。プログラムに応じて45分から80分くらいでしょうか。朝の体操から始まり、脳トレ、雑学、日本のニュース、日本の童謡、ボール、クラフト、回想法、映画、ゲーム、ビンゴ、Wii、映画、お花、お菓子作り、カラオケ、ダンス、太極拳、紙芝居、誕生会やパーティーなどなど。週に2、3回は夜のプログラムもあるので、11時から夜7時という遅番の時もあります。
なるべく楽しく生活してもらいたいと思い、体操なども面白く取り組めるように工夫していますが、サービス精神を出しすぎてぐったり疲れることもあります(苦笑)。

これに加えて、私はこの施設の中でほぼ唯一の日本語話者なので(他の組織から定期的に来てくれる日本人スタッフもいます)レクだけではなく看護師やソーシャルワーカーから通訳や翻訳などを頼まれることもあります。

レクに関しては基本はスタッフは1人しかいないので、どうしてもグループのレクが多くなってしまいます。みなさんの身体的・認知の機能が異なるので、グループレクは難しい部分がありますが、なるべく多くの方が楽しめるようにしています。

また、日本生まれの方とカナダ生まれの2世の方がいて、日本語だけの方、英語と日本語を話す方、ほとんど英語しかわからない方が混ざっているため、レクも日本語と英語でやります。


回想をすると2世の方がカナダでの暮らしを教えてくれたり(カナダの洗濯板は真ん中がガラスだったとか、おいなりさんの中のご飯には人参をすって混ぜるとか)、戦争中にカナダで日系人が隔離されていた時の話などを教えてくれたり。本当に興味深いです。

日系2世の方は日本語を話しますが、漢字の読み書きは難しかったり、日本文化や歴史はあまりご存知ないことが多いので、例えば漢字を使ったレクや歴史クイズなどはできないので、レクの内容には毎回悩まされています。でも日本の昔の遊びをやったりすると(カルタ・コマ・あやとりなど)「懐かしいーー!!!」と大きな声が上がり、会話も盛り上がります。

 

戦後、カナダ全土に散り散りにさせられる前にはブリティッシュコロンビア州、特にバンクーバーに住んでいた方が多く(パウウェルストリートという所に日本人が集中して住んでいたそう)昔、友達とよくやったのだそうです。

ちなみに月に1回、日本のおやつ作りも行っています。おいなりさんとか、おはぎとかを作っています。普段の食事は日本食か中華を選ぶことができ、テレビもケーブルで日本のチャンネルが見られます。日本食店の協力を得て、大晦日には年越しそばを、お正月にはおせちを少しだけですが味わっていただいています。

今回は、ほぼレクリエーション担当の話になってしまいましたが、今後、カナダの介護事情や他職種連携についてご紹介していけたらと思います。