カナダの成年後見制度 Power of Attorney

ソーシャルワーク・タイムズ vol.148 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.85 より転載

· 高齢者,制度政策

2016年、東京は54年ぶりの11月の雪だったそうですが、その時ちょうどトロントも雪が降っていました。寒いのはここカナダだけではなかったと、なんとなく嬉しくなりました。しかしこの時期に雪が降ったことは、温暖化の影響という説もあると聞きました。カナダでもこの秋は今までになく暖かい日が続いていたので、地球が心配です。

さて先週、メルマガソーシャルワークタイムズで鷺原由佳さんが成年後見制度の問題点を書いていらっしゃったのを拝見して、カナダ、オンタリオ州での成年後見制度に近いものについてご紹介したいと思います。
カナダには成年後見制度に似た、Power of Attorney (POA)という制度があります。
Power of Attorney財産の管理に関するものと、ケア(介護など)に関わるもの、の二種類に分けられます。
これは本人が事故や病気、加齢などにより、財産の管理やケアに関する判断が困難になった場合に、代理人の判断に委任するというものです。
委任される代理人は、本人の声を尊重しなければならないという前提があります。

財産管理18歳以上ケアに関わるものは16歳以上の人を誰でも代理人に指定することができ、財産管理とケアにかかわるものを別の人にしてもよく、またそれぞれ複数の人を指定することもできます。万が一の場合、一人の人を指定しておくだでは安心できない場合や、複数人を指定しておくことで、トラブルを回避できるという側面もあるようです。

代理人の指定は、本人の同意を得なくても可能です。しかし代理人に指定された人は、その事実を知ったときに、それを断ることもできます。

 

(後日追記:老人ホームや病院などでは、ケアの方針を決める際にご本人が判断できない場合や、緊急に連絡する必要がある場合には、まずケアに関わるPOAに連絡します。逆にPOA以外には、ご家族であっても、その方の健康に関する情報などを開示してはならない、とされています。)

このPOA(代理人制度)に加えて、どのようなケアを受けたいのかに関して、living willという、いわゆる生前に有効な遺言を書いておくこともできます。財産に関しては、日本と同様、死後に有効な遺言状(Will)を書くことができます

これらの書類は必ずしも弁護士を通す必要はないようですが、法的拘束力のあるきちんとした書類にするために、弁護士に相談したり、弁護士に「証人」になってもらう人が多いようです。書類には「証人」のサインが必要なのですが、証人は「他人」でなくてはならず、本人の配偶者や子ども、代理人の配偶者などはなることができないとのこと。

生前でも死後でも遺言状がない場合や、POAを決めていなかった場合、財産に関しては後見人(死後の場合は財産管財人)になりたい人がその旨裁判所に申し立てを行い(たとえそれが家族であっても)、認められた場合のみ後見人になることができます。でも、この手続きがとても大変なんだそう。

(ケアについてのPOAが決められていなかった場合には、一般的に、家族の方々で近しい人の意思が尊重されることが多いようです。)

カナダでは結婚の届けが必ずしも必要ではなく、コモンローという同居のパートナーでも婚姻関係にあるとみなされます。そのため結婚の届けをしない人も多いのです。そういったカップルは、法律上は婚姻状態が確認できませんので、あらかじめ財産やケアに関して、パートナーの人を代理人として指定をしておくことが重要となります。

POAやWillは、作成の内容が比較的細かく決められており、作成時に弁護士さんが関わる場合が多いので、きちんとしたものができれば比較的トラブルになることが少ないようです。しかし大変なのは、POAが決められていなかったり、Willがない場合。残された家族は、勝手に財産を処分したりできませんので、長い時間がかかったり大変な状況におちいる時もあるんだそうです。

このように、カナダでは、自分のケアの方針や、財産をきちんと把握して、意思を伝えることや、事前に意思を代弁してくれる代理人(POA)を指定することが求められています。

でも現実には、弁護士さんを頼むのも高いので、金銭的な余裕がないために作成が難しかったり(一応、州で決められた作成の手引きがあり、弁護士さんを通さなくて作成できるのですが)、身寄りの方がいない方は誰に代理人(POA)になってもらえばいいのかわからない…という人もいます。

 

今後、高齢化が進むカナダでも(現在の高齢化率は17%です)、高齢者の方々のケアの意思表示や財産の管理がより問題になってくるでしょう。

 

(POAやWillの詳細に関しては、専門の弁護士さんなどにお尋ねください)