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EI(EQ)よりも基本的な倫理的原則の遵守を

ソーシャルワーク・タイムズ vol90 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.36

· 大学院の授業,社会福祉制度

10月に入って急に寒くなったトロント。つい先週まで冷房が入っていた室内は、既に暖房がついているところもチラホラあります。

さて現在、週3回実習をしながら3つの授業をとっています。その中の一つが「社会福祉組織のリーダーシップ論」です。営利組織とは異なる視点から、非営利団体や社会福祉組織で必要となる組織のマネージメント理論、リーダーの特徴や組織変革を導く力の構造などを学んでおり、非常に興味深いです。

先日の授業で「リーダーに必要とされる特徴」の一つとして出てきたのが「エモーショナル・インテリジェンス(EI)」の視点でした。日本ではIQになぞらえて「EQ」などと呼ばれています。

EIの内容としては、「自己洞察、感情の自律(エモーショナルコントロール)、モチベーションの維持と表出、他者への共感、社会性(ソーシャルスキル)の表出、他者との関係構築」などがあります。
このEI、確かにリーダーに求められる資質です。先生はEIの大切さについて力説していたのですが…私は正直「またかよ…」と思いました(笑)。

というのは、これらのことは介護職(や、それ以外の仕事)をしていた時に、嫌という程やらされた(自らやらなければならないと思ってやっていたのを含む)ものです。「自分の負の感情をコントロール」し、「笑顔を絶やさず」「やさしさ」をもって相手に接する、という「感情労働」とも言えます。このことから疲れてしまったこともあります。

私は「EI(EQ)」という概念は、マネージメント層(管理職)には必要な知識&スキルですが、一般の社員やワーカーにそれを求めることは(企業の文化や環境によっては)労働強化をもたらすことにつながるため、この言葉の利用には注意が必要であると考えています。

クラスでもその旨を発言しました。でもあまり伝わっていなかったようにも感じました。その後、なぜ余り伝わらなかったのだろう…と考えていたのですが、それはやはり文化的・社会的背景の違いが大きいと思います。カナダを含め北米やヨーロッパの店員さんや職員さんは無愛想です(例外ももちろんありますが)。お客様第一の過剰なサービスもありません。シフトが終われば、お客さんやクライアントがいても帰る人もいます。そしてお客さんやクライアントも、過剰なサービスや愛想の良さを期待してはいません。そのため日本に行くと、皆さんそのサービスに感動します。(私も日本のサービスは世界一だと思います。)ですので、EI (EQ)が一般職員の労働強化につながることが、イマイチ理解できないのも分かるような気がします。

ちなみに感情労働はもともとアメリカの学者であるホックシールドが、80年代にフライトアテンダントの研究を行ったことから作られた概念なのですが(観察してみると欧米系航空会社のフライトアテンダントにサービスの良さや愛想を含む感情労働を求める時代は終わったようです…)。

そもそも日本では、小さいころから迷惑をかけてはいけない、小学生の時から「明るい笑顔で挨拶をしましょう」、就職活動では「目立たない格好(スーツ)をしながらも、キラリと光る自己アピールをする」などと社会のルールに従い、よい面を見せるように刷り込まれています。また近年は小学校からプレゼンなどの練習をさせるようになってきており、小さいころから社会性を表すことが求められています。日本人は感情の自律をしつつ、モチベーションの表出をし、かつ適度にアピールしなければならないことをよーーーく知っていると思いますし、それでなければサバイブできないような社会に、どんどんなってきていると思います。

一方で、パワハラ、セクハラ、マタハラや会社でのいじめなどの話題にも事欠きません。こういったことがある組織の場合には、やはり(多くの場合、加害者となる)管理職には自己洞察、感情の自律(エモーショナルコントロール)などのEI(EQ)の視点が必要かもしれません。しかし日本の場合には、リーダーシップを考える際には、EI(EQ)よりも、もっと基本的な法令と倫理的原則を理解し、それを遵守することが必要なのではないでしょうか。

社会福祉士会の定める倫理綱領を読んだことがあるでしょうか。そこに書かれている「価値と原則」は以下の5つです。リーダーシップから考えると「社会福祉士は」のところを「管理職は」と入れかえて読むこともできます。

1. 人間の尊厳:社会福祉士は、すべての人間を、出自、人種、性別、年齢、身体的精神的状況、宗教的文化的背景、社会的地位、経済状況等の違いにかかわらず、かけがえのない存在として尊重する。
2. 社会正義:差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などの無い、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現を目指す。
3. 貢献:社会福祉士は、人間の尊厳の尊重と社会正義の実現に貢献する。
4. 誠実 : 社会福祉士は、本倫理綱領に対して常に誠実である。
5. 専門的力量 : 社会福祉士は、専門的力量を発揮し、その専門性を高める。

これは社会福祉士以外でも、どのような非営利組織、社会福祉を担う方にも当てはまるのではないでしょうか。ちなみに倫理綱領は英語でCode of Ethicsと言って、管理職を含めて全てのソーシャルワーカー(や医師や看護師や弁護士)が守るべき最低基準であると何度も出てきます。

リーダーに必要なスキルや素質は本当に様々で、リーダーには色々な形があって良いと思います。そのひとつに「よいリーダーはスタッフを守り、安心を与える。問題があった場合にはスタッフ個人の責任にせず、組織としてその解決に取り組む」というものがあります。
日本では、EI(EQ)という言葉や概念を使用する以前に、最低限度の倫理的原則(と法令)に従い、スタッフを守ることができれば、救われるスタッフも多いのでは…と過去の経験から強く思います。

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