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広がる「ハームリダクション」アプローチ

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.59 ソーシャルワーク・タイムズ vol114 

· 社会福祉制度,カウンセリング

卒業式シーズンですね。ご卒業される皆さん、おめでとうございます。昨日は日本語補習授業校(通称、補習校)の卒業式でした。補習校は文科省の認可校(?)で、週1回ですが日本と同じ内容を勉強します(英語以外)。本年度は幼稚園から高校生まで107名の人が卒業しました。ある程度の年齢になるとやめる人も増えてきて、学年が上がるにつれて人数が減ります。今年の高校の卒業生は8人でした。

さて先週は、トロントで老人ホームを訪問したことをご紹介しました。カナダは州によって法律が異なりますが、基本的に医療・介護は(基本的な部分は)公費でまかなわれています。日本のような保険制度ではなく、税金を財源とする方式です。
ただし、薬や歯科や眼科は自己負担。また、救急車の利用にも数十ドルの請求がくるとか。

介護、特に在宅介護は、実際には公費でカバーできる範囲では到底足りないため、私費で介護士(personal support woker:PSWと呼ばれています)や、資格のないお手伝いさんを雇っている人も多くいます。カナダでは共働きが多いことや、親子の同居は一般的でなく、一人暮らしや高齢者だけの世帯が多いという事情もあります。

さて、高齢者施設にソーシャルワーカーとして勤める友人に聞いた話では、トロントでは、シェルターや路上などで生活している高齢の方が入所することも多いそうです。いわゆる市営住宅のような公的な住居に申し込みをしているものの、その待機数がかなり多いために、先に老人ホームに空きが出た高齢者施設に入所されるのです。そして、その方々の中には、薬物やアルコール依存の問題を抱える人も少なくありません。

そのため今、課題となっているのが高齢者施設で「ハームリダクション」のアプローチをどう取るかということだそうです。「ハームリダクション」とは、薬物やアルコール依存などに関して、その使用を処罰の対象とし全面的に禁止するのではなく、どのように危険を減らし、安全性を高めるた上で認めていくかという視点で捉えたものです。

例としては、オランダの大麻の吸引ができるコーヒーショップが有名です。先週お伝えした高齢者施設に週2、3回オープンする「バー」もその一つと言えるかもしれません。(敷地内での飲酒の方がスタッフの目もあり、安全性が高まる)

カナダではブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバーには、薬物がそこで摂取できる施設「Insite」があります。バンクーバーでは薬物使用者の広がりと、自宅や路上等で薬物を使用することにより注射器などの不適切利用(複数人での利用など)による感染症の拡大や、中毒症状による救急搬送などによって医療費が増大していることが問題となり、この施設が開設されました。

なぜ禁止薬物の使用を幇助するようにも思えることを行うのか。それはまず、薬物使用が社会に広がっているという事情があります。さらに薬物使用を禁止し処罰をする方向性を取ると、利用者は隠れて使用することになり、その事象自体が不可視化されます。その状態での薬物使用は、不適切な摂取や過剰摂取で、心身への危険性が増したり、介入が困難になるという問題があります。これに対して、ハームリダクションのアプローチは、一定の場所で薬物の使用を可能にすることで、危険な摂取を抑えたり、介入を行いやすくすることを目的としているのです。

この施設の開設には賛否両論、大きな議論を引き起こしましたが、費用対効果の面などで効果が見られるとして2003年に開設され、今も存在します。なお、この施設はカナダでも薬物使用は違法行為ですが、個人的利用の場合にはむやみに逮捕されることがないという既成事実によって成り立っているものです。

この施設は登録制で現在12,000人の登録者がいるそうです。2012年のデータでは、1年間に約9,000人のユニークユーザー、延べ376,000件の利用がありました。そのうち薬物使用目的は約193,000件、一日あたりにすると530件の利用がありました。この数字からも薬物使用の多さが分かると思います。

この施設では、薬物使用のための設備の他に、医療処置のための設備、薬物を抜くための設備もあり、薬物使用に対する啓発教育も行っています。このようにカナダでは、薬物やアルコールの依存は、それ自体を禁止するよりも、社会とのつながりを保ちつつ、適切な教育などを行うことでその危険性を伝えた方が抑止効果があると考えられはじめています。

ハームリダクションのアプローチをとる薬物教育の例では、薬物を使用している若者に対して、使用経験のある若者がリーダーになったグループもあります。禁止するという立場からではなく、参加者を否定しないオープンな雰囲気のグループを実施することで、より良い結果が出ているというデータもあります。また、依存症は人や社会とのつながりがあれば、依存度が減少するという研究結果も出ています。

日本でも薬物使用で逮捕されるニュースが流れてきます。「Insite」のような薬物が使用できる施設は極端な例としても、依存症を抱える人への支援や介入に大切なのは、一律の禁止(=逮捕、処罰)ではなく、その後のリハビリや社会的な受け皿、人とのつながりと教育、そして周りの人間のアプローチの仕方ではないのかと、「ハームリダクション」という言葉を聞いて考えさせられました。

「Insite」ウェブサイト:http://supervisedinjection.vch.ca/en/

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