本は福祉の一部と言えるか

 

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol. 87 ソーシャルワーク・タイムズ vol.147

· 制度政策

先日、日本で生まれ育ったタイ国籍の高校生が強制退去処分の取り消しを求めた裁判で、その訴えが退けられる判決が出ました。現在の日本の法律に即せば、外国人が日本で出産しても子はその両親のどちらかの国籍になるので、彼は「タイ人」になるわけですね。

一方、カナダは出生地主義で、カナダで生まれればカナダ国籍になります。親が日本人でカナダで出産した場合、日本にも届け出を出すと、子は日本国籍ともなり、成人して本人が選ぶ(国籍の放棄をする)まで、二重国籍となります。

日本は世界で唯一、戸籍制度がある国いっても過言ではありません(韓国は2008年に廃止、台湾は実質使われていない)。「世帯主」などの言葉からわかるように(私、この言葉大嫌いです)家族主義が強いと言えるでしょう。そのため、親の不法滞在の責任は子も含めて、家族全体で取るものという価値観が見えてきます。

日本は「単純労働者」としての移民は「積極的には」受けれていませんが(研修制度という大きな抜け穴があります)、高度技術者や高学歴者を呼び込むため現在、積極的に動いています。その一つが留学生の誘致と、有能な留学生には留学後にも日本に滞在してくれるように働きかけていることです。

日本に生まれ育って、日本の高校に入っている彼を行ったこともないタイに「帰す」というのは、その動きに逆行するようにも思えるのは私だけではないはずです。

カナダでも、移民は学歴や職歴などで審査されます。一方、難民も多く受け入れており、受け入れ後には無料の英語教室を提供するなど、語学力などの面で底上げに力を入れています。

さて、今回は(も?)ソーシャルワークの話と少し離れますが、図書館について話したいと思います。

私は、図書館は本好きの人が本を借りるためのみならず、地域社会に必要な場所であり、使いようによっては非常に便利なツール(リソース提供場所)になりうると考えています。

何度もいうようですが、トロントは他民族都市。以前、トロント市の公立図書館にソーシャルワーカーがいて、移民の相談にのっている場所があることを紹介しました(記事はこちら)。委託された非営利団体から「セツルメントワーカー」などと呼ばれる人が派遣されています。この方々に相談すると、地域の非営利団体や福祉制度などのリソースなどを教えてくれるそうです。これとは別に、図書館で無料の英語のレッスンをやっているところもあります。

どんなサービスがあるのかは、地域のニーズなどに合わせて各図書館によってことなります。

もちろん読み聞かせイベントや、作家さんによるトークイベントなど通常の本に関するイベントもあります。

またトロント市の図書館では貸し出しカードを持っている人に対して、美術館や科学館のチケット、場合によっては動物園などのチケットも無料で配布しています(通常は、毎週土曜日の朝に配布しています。図書館によって配布する種類が違うので、詳細はこちらからご確認ください。場合によっては並んでいることもあります)。

さらに図書館では、コンピューターが充実しているところが多く、子どもや若者優先のコンピューターがあるところもあります。もちろん、無料wifiも完備です。

私はよく土曜日に図書館を利用するのですが、勉強や仕事をするのに、とても便利。

カナダではペーパー試験がほとんどないからか、受験生で席が埋まっているということはありません。利用者は子ども連れや本を借りる人も多いですが、テーブルで勉強しているのは、大学生や社会人が多いようです。

本だけでなく漫画、DVD、CDやTOEFLやIELTSの参考書もあります。置いてある本も様々な言語です。英語、フランス語はもちろん、中国語、アラビア語、ヒンズー語、ロシア語、ポルトガル語など。

日本語の本も多くはありませんが、置いてあります(数が多くないので、インターネットで近くの図書館に取り寄せします)。

角田光代さんの「八日目の蝉」という小説は、日本語、英語、中国語で置いてありました。

私は小説が好きで、最近は移動の時間が多いので、またよく読むようになりました。

トロント市の図書館以外にも、トロントにはジャパンファンデーション(国際交流基金)の事務所があり、図書室があります。それほど広くはないのですが、ベストセラーや有名な本、漫画や雑誌が置かれています。

Kindleも使いますが、やっぱり本は紙で読みたいものです。トロントでは、日本語の本が買える場所がとても少ないのですが、日本語の本が読める図書館が少しでもあることは、私の心の安心につながっています。

このような文化的なリソースやサービスの提供は福祉サービスと言えるのか、というのは議論の分かれるところだと思いますが、福祉を「人の幸福や生活の安定、充足」と考えると、このような文化的なリソースもとても大切なことに思えます。

日本語の本を読めることに限らず、食材が買えること、日本食が食べられる店があること、そして日本語を話す機会があることは、海外で暮らす身としては非常に安心するものです。

外国で暮らすことは(言語ができたとして)知らず知らずのうちに緊張しているものですから。病気や災害の時は尚更です。

日本にいた時にはあまり考えたことがありませんでしたが、今後、より外国人が増えるであろう日本でも、日本語の学習支援だけでなく、様々な言語でのサポートが必要となるでしょう。

外国人に向けた直接的な福祉サービスだけでなく、図書館のような文化的なリソースを含めた福祉をどのように提供するのかについても、今後考えていかなければならないと思います。