外国人家事労働者とアンペイドワーク

ソーシャルワーク・タイムズ vol74 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.20より転載

· 移民

先週はカナダで外国人家事労働者を受け入れていることを紹介しました。保育の制度が整っていないこともあり、外国人ナニーは富裕層の共働き世帯に雇われています。しかしそこには問題もあることを紹介しました。本国に家族や子どもを残してカナダに来ている方も多いのです。

外国人ナニーの募集は、一般の求人サイトなどにも掲載されています。ちょうど数日前に見た求人は、夫婦が直接の雇用主として募集していて、メッセージ欄には「どのような宗教でもOKです。本国に家族がいるなど、事情がある方に対しても理解があります。スカイプや電話などをするための自由時間も提供します」という趣旨のことを書いていました。

最近、日本で外国人家事労働者の良い面を紹介する記事が増えてきているように感じます。「『win-winの関係』『外国人労働者も帰れば故郷に錦を飾ることができる』『子どもが英語を学べる』『異文化体験ができる』」など、受け入れを後押しするような内容も見受けられます。でも、本当にそうでしょうか。

確かに外国人の労働者は、労働力を提供しお金を稼ぐ為に、一見、自ら希望してやってきているように見えます。しかし、外国人家事労働者の受け入れについては、少し大きな視野で考えなければならい課題です。

まず外国人労働者として働く理由には、自国に職がないという問題があります。フィリピンなどは政府の方針で、人材を養成して輸出する「人材輸出大国」。国は外国で働いている同胞からの送金で成り立っている現状があります。本人が希望して来るというよりは、国内には仕事がないので(出たくなくても)国を出なければならないという事情があります。

もう一つ考えなくてはならいこと、それは子どもを産む、育てる、家事、介護といった「再生産労働」(アンペイドワーク=無償労働)が女性の役割になっているということです。そしてそれが、経済的に弱い立場の者が担わされてる構造になっている現実です。現在では、先進国の多くで女性を市場経済の労働力に組み込むために、再生産労働が国内の女性だけではなく、外国人家事労働者を雇うという形で発展途上国の女性に転嫁しているのです。さらに、外国人家事労働者の出身国の中でも、さらに立場の弱い別の女性へと転嫁しています。

受け入れ国の経済的な発展や労働力確保のために外国人女性に家事労働を担わせることは、日本が産業化・経済成長に伴い「企業戦士」である男性を支えるために専業主婦がつくられ、女性に家事・育児等のアンペイドワークが押しつけられてきた歴史を彷彿とさせます。外国人ナニーを受け入れるということはこれらを理解し、時にその加害者性をも自覚しなければならないことだと思います。

外国人ナニーを受け入れているカナダですが、一方で共働き家庭に別の流れも感じます。それは、男女問わず5時ですっぱり仕事を切り上げて家に帰る人が多いということです。保育園やアフタースクールクラブに5時過ぎにお父さんがお迎えに来ていることも多く見られます。職場の労働時間がフレキシブルだったり、なるべく残業をさせない所も多く、男女問わず子育てがしやすい環境ではないかと思います。ちなみに、保育園の数は限られており保育料も(補助がなければ)すごく高いのですが、カナダの出生率は1.6と日本より高いです。

日本は今、目の前の沢山の仕事量やノルマをこなすこと、個人や会社の成功、短期的な経済発展という視点だけではなく、長期的な視野で発展と持続を考える必要があるのではないでしょうか。それはどんな社会にも持続には、子どもが必要不可欠であることです。

男性と、男性並みに働ける女性が長時間労働をする社会構造は、非正規で働かざるを得ない女性を増やし、国内の女性のみならず、外国人女性に家事育児、介護などのアンペイドワークを「押し付ける」ことになっていることを自覚しなくてはなりません。

まずは(特に男性の)長時間労働からシフトすること、時短やお休みが取りやすい環境と雰囲気づくりが大切だと思います。「制度が整っていても雰囲気的に使えない」「早く帰ることや休みを取ることが気まずい」という職場も多いので、そのような『気まずさ』がなくなるような環境作りを進めることも大切です。外国人の家事労働者の受け入れを検討するのは、それらを徹底的に実行してからでも遅くないのではないかと、私は思います。