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ストに出会って考えたこと(3)集団の暴力性と排除

ソーシャルワーク・タイムズ vol64 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.11

· AOP,大学院の授業,組合

トロント大学は9月始まりの3学期制で、今週は2学期最後の週。私も2学期目を無事に終えることができました。さて、過去2回に渡りトロント大学のTAが行っているストライキについてお伝えしてきましたが、ついに学期末の今週、組合と大学の合意に至り、約1ヶ月に渡るストに終止符が打たれました。

ストにおける主張は、当然ですが立場により賛否が分かれます。今回のストでTAが主張している年間総支給額(奨学金と教育に関わる対価から学費が引かれた額で1.5万ドル〜=日本円にすると約135万円〜)をもって、貧困ライン(約2万ドル=日本円で約180万)の下にあるということは妥当でないのでは、という意見もあります。また組合の主張は認めるものの、それが自分たちの払う学費になって跳ね返ってくることに反対する学部生も多くいます。

今回のストには、組合員当事者の中にも様々な意見がありました。しかし組合の中心メンバー(白人のカナダ人男性が多い)の声が大きく、意見も通りやすいため、一部の声の排除が起っていたようにも見えました。組合の中心メンバーの人種構成が、白人カナダ人男性に多いことは、大学院生全体の人種構成を鑑みると、とても不自然なことです。このことは、社会の中で安定しており、いわゆる「特権」を持つ人たちが、集団の中で発言力を持ちやすいという構造的な理由が関係していると考えられます。

反対に例えば、今回のストライキでTA当事者となった留学生は、とても不安定で発言しにくい立場に立たされることになりました。留学生は学生ビザで滞在していますが、ビザの更新には大学側から発行される学籍が必要となります。もし学校に不都合なことをしたとみなされて、身分が学生でなくなれば、カナダに滞在できなくなる可能性もあるのです。このように国に「滞在させてもらっている」留学生は、学費はカナダ人と比べて約2倍。奨学金やTAの対価も当然の権利ではなく、特別に「いただいている」ものであるという感覚に陥ります。留学生を含むTAは全員、組合に所属する仕組みなので、ストライキにも参加を求められていますが、留学生は大学側に主張がしにくい立場にいるだけでなく、ストライキ中にトラブルに巻き込まれ、最悪の場合「強制送還」されるリスクなどにもさらされています。

さらに、ストが始まってから組合内部の暴力性が増しているのではないか、という指摘もありました。私自身、日を追うごとに、ピケでの声が大きくなっているのを感じましたし、組合内部の発言内容や言葉が激しくなっているという指摘もありました。通行人や学生の中には、沢山の人が集団で大きな声で叫ぶことに対して怖いと感じる人もいたように思います。

今回、私がストに直面し感じたのは、ストライキは労働者の権利であり時に有効な手段ですが、そこで引き裂かれる思いになる人も多く存在すること、そしてそれが新たな分断につながる可能性があるということです。組合を含めて集団では、メンバーの感情が高ぶることで周囲が見えなくなる可能性があり、少数の声が排除されるなど、常に暴力性がつきまとうことを感じました。これは社会全体でも言えることだと考えています。

近年「多様性のある社会をつくる」と様々なところで聞かれます。この場合の多様性とは何でしょうか。そこでは、少数の声の排除が起っていないでしょうか。自分の主張に対し、声をあげないことを自己責任と考える人もいるかもしれません。しかし社会的に弱い立場の人、傷ついた人が声をあげることはリスクもあり、とても難しいことです。このような場合、どうすれば一律の価値観を押し付けることなく、様々な立場の人の声を反映した、本当の多様性のある社会が作れるのでしょうか。

カナダではAOP(アンチ・オプレッシブ・プラクティス)という福祉の考え方が浸透してきています。日本語に訳すと「抑圧に対抗する実践」となります。「多様性」という言葉では対抗できない、むしろかき消されて見えなくされてしまう、少数の存在に焦点をあて、その人々が受けている社会的、経済的、文化的など様々な抑圧に対して積極的に対抗していくという実践です。これは、必ずしも弱い立場に置かれた人の代弁者になるのではなく、当事者が声をあげやすいような環境を整え、力づけることで、当事者が主体となって動いていくというものでもあります。

社会を変えるには、大きな声で主張することは必要です。しかし同時に今回の件を通して、集団の暴力性と抑圧性、そして弱い立場の者が声をあげることの困難とリスクに敏感になっていたい改めて思いました。様々な人の利害が対立し、それが簡単に解決することができないとき、そこに葛藤が生まれます。もしそこで何らかの違和感を感じたならば、そのことについて考え続けることが大切なのではないかと、今は感じています。これまで見えなかったことに気付くきっかけとなるかもしれません。

さて、ストライキと学期が無事に終わり、ホッとしていますが、4月の末からはいよいよ3ヶ月に渡る実習が始まります。私は移民や生活保護の方々の就労支援を行っている非営利団体に行く予定です(もちろんすべて英語なので不安です…)。こちらについても、今後レポートできればと思っています。

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