トロントの子どもの貧困対策 (2)

ソーシャルワーク・タイムズ Vol 97 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol. 43

· 貧困,児童・教育

先週の日曜日にトロントで毎年恒例「サンタクロースパレード」がありました。サンタが大勢パレードするのではなく、各企業のフロートや、団体のダンスやマーチングで街をパレードし、サンタは最後に1人だけ登場します。なぜこの時期かって?それは12月になると寒すぎてパレードができないから、だそうです。トロントの人はこのパレードが終わると、本気でクリスマスの準備をしなくちゃ!という気持ちになるそうです。

この時期のカナダらしい貧困対策に「クリスマスプレゼントを贈るプログラム」というものがあります。

カナダではクリスマスは一年で一番大きなイベント。そのため12月は出費もかさみます。この時期にチャリティー団体が寄付を集め、シェルターや生活保護を受給していたり、貧困地域で希望する親に、子どもの欲しいものを聞き取りをして、プレゼントを贈るのです。もちろん子どもには内緒です。子どもはこの贈り物に対してお礼の手紙を書くこともできます。

プレゼント以外にも、子ども服やベビー用品、靴下などの寄付を集めて贈る団体もあります。これは大抵「プレゼントを集める団体」と「配る団体」が恊働して行います。「配る団体」は地域で活動しているアフタースクールクラブ(学童)など、普段子どもがいるところです(トロントは民間の団体間の恊働が大好き&上手だと思います。これは限られた予算の中で、効果的に持続的に非営利団体が活動していく手段の一つです。)

<フードバンク>

先週、トロントには子ども食堂などは、ほとんどないことをお伝えしましたが、トロントではフードバンクがよく活用されています。これは食品会社、スーパーなどの小売企業や個人が食品・食材の寄付をすることで、食材が無料で受け取れるサービスです(日本でも導入されていますね)。

様々な非営利団体がフードバンクからの食品を受け取り、食事の提供にあてたり、おやつとして提供したり、利用者の方が持って帰って活用できるように配布したりしているそうです。

食材はシェルターやホームレス支援施設や、「スープキッチン」などと呼ばれる無料食堂で提供される食事の材料としてよく活用されていて、量が多いところはトラックで配達をしてくれます。個人でもアクセスしやすいよう、スーパーで、袋に小分けをして置いてあることもあります。また寄付ボックスが設置されているスーパー等もあります。

ただしフードバンクでは野菜や肉などの生鮮食品などが手に入りにくく、パスタや缶詰、瓶、インスタント食品が多いという欠点があります。また、シェルターなどではどんな食材がいつ届くか分からないために、計画的に献立が立てにくいという苦労もあるそうです。

カナダでは(でも)、肉や野菜、乳製品は価格が高いので、栄養のある食事は課題のひとつです。比較的安い食材である炭水化物(パンやドーナツなど)の取りすぎで、貧困層の肥満や糖尿病が問題になっています。給食はある学校も一部ありますが、ない学校が多いです。しかし近年、野菜などを積極的に摂取する習慣の必要性が言われており、10時頃にセロリや人参などの野菜やビスケットなどのおやつタイムを導入している小中学校もあります。カナダでは「家庭科」などの授業はないので、栄養や食事づくりの方法などの食育が課題になっています。

<朝ご飯プログラム>

トロントでは夜ご飯ではなく、子どもに朝ご飯のサービスが提供されている場所があります。学校やコミュニティセンター、学童などがありますが、これは日本と比較して学校が始まるのが遅く(8時45分-9時)、朝早く出勤する親に代わり子どもを預かるという機能もしています。

なお、私の知る限りですが、アフタースクール(学童)は遅くても夕方6時まで。保育園も5時か6時までです。

これは残業などをあまりしないことが多いに影響していると思います(夜のシフトで働いている人はもちろんいますが)。子ども達の行っているアフタースクールでは(日本の学童とおなじように)「おやつ」が出ます。でも「今日はご飯だった」とか「ビーフだった」とか聞くので、かなりがっつり食べているようです(笑)。

<学習支援と各種教室>

学校外での学習支援の教室はあまりないです。これは学校のひとクラスの人数が平均20人くらいであること、また高校まで義務教育で受験がないこと、大学受験もペーパーテストがないことと関連していると思います。

学習支援という意味でいえば、小学校に教員養成課程に所属する大学院生が来ることがよくあります。大学院生はこの活動を通して経験を積むだけでなく、大学院の単位を取得できる仕組みにもなっています。

またうちの子どもの学校では、希望者に対して、コンピューターやプログラミングを習うため、放課後にスクールバスで専門学校にいくプログラムもありました。学校×大学・大学院生(×民間企業)はよく見かける仕組みです。

放課後の学習支援も数は少ないですが存在します。例えば電話会社のBellが助成するプログラム。

アフタースクールクラブ(学童)とセットになっていて、小学生(1年生から5年生)が対象です。これは小学生の時の学力が高校中退率に大きく関係するという考えがもとになっており、高校中退率を減らすことの主眼が置かれています。ただでさえ仕事が見つかりにくい昨今、中退してしまうとその後が急に困難になるからです。

また学習支援ではないですが、いつでも自由に参加できる(ドロップイン)アート教室、音楽のレッスンなどを無料か、安く提供しているNPOはいくつかあります。このような団体の人が学校に行って音楽活動をしたりもします。

<10代の若者向けプログラム>

放課後に地域でやっている「子どもの居場所」的なプログラムとしては(小学生向けのアフタースクール以外だと)10代の若者向けのものが目立ちます。スポーツやリーダーシップを育むプログラムなど日替わりで開催していて、夕方から希望した人が集まってきます。

若者を引きつけ、居場所と感じてもらうために、コンピューターやゲーム(wiiなど)、ビリヤード、バスケなどがあるセンターもあります。もちろんwifiが入ります(小学校から学校で入りますが…)。軽食も提供されるところが多いです。

これはカナダで10代の若者の犯罪や薬物の使用などが問題になっており、若者が地域で安心して集まれる居場所を作るという意味合いがあります。

そして、そこで行うプログラムは「若者の意識を変える」という意味合いが強いように思います。

例えば「Pathways to Education」は中高生にメンター(先輩)がついて相談にのるというNPO。

「勉強なんて格好悪い…」「真面目にしても損…」などという若者の意識を変えて、人生を肯定的に捉え直し、高校卒業(と大学進学)を促進しようとするものです(ちなみに高校は10年生から中退できます。担任制度がなく進級や卒業要件に厳しい部分もあり中退してしまう人も…)。

この場合、同じ人種や民族の方がメンターになることが大切です。この団体はその効果が評価され、カナダ全国で行われる事業となっているそうです。ご興味のある方はビデオをご覧ください。http://www.pathwaystoeducation.ca/

日本でも「小4の壁」という言葉があります。学童が小3で終わった子どもたちの行き場がなく、塾や習い事に通わせるというのは、ワーキングペアレンツの「あるある」です(我が家もそうでした)。また高学年になると中学生と街を徘徊しはじめる、などという話も耳に入り心配です。日本では「中高生は部活」という概念があるためか、中高生が安心して集まれる居場所が少ないように感じます(学校は部活がない日は早く帰れと言いますし…)。さらに自分の時のことを思い返しても、中高生は色々と不安になりやすい時期でした。

安心して集えて、親以外に気軽に相談できる人がいる場所があればいいな、と思います(それが私の場合は中学での塾と高校での部室でした。今は塾に通わせてもらえたこと、部活ができたことは「特権」であり、決して「普通」のことではないのだなと感じています)。