ストに出会って考えたこと(1)葛藤を抱える当事者たち

ソーシャルワーク・タイムズ vol62 子連れソーシャルワーク留学 in カナダvol.9より転載

· 大学院,組織論

3月も半ばを過ぎ、トロントも暖かくなってきました。雪もとけそれと共に人々の表情もとても明るくなりました。お天気って大切ですね。

さて、今日から数回、私が現在、在学中のトロント大学行われているストライキについてお伝えします。カナダではストライキがよく行われるそうです。地下鉄やバスを運営している会社や、ゴミ収集の業者がストをしたこともあるそうです。皆さんは「スト」と聞くとどのようなことを思い浮かべますか?

2月の末からトロント大学では、TA(ティーチングアシスタント)が加入する組合の一部のグループ(組合員数6000人)がストライキを行っています。”アシスタント”と言っても、一部の講義を担当し、学生のディスカッションをリードし、採点もするという大学運営には欠かせない存在です。

そのTAを組織する組合は、賃金と奨学金から学費を引いた支給額(パッケージ)の増額を求めて大学側と協議してきました。しかし合意に至らず今回、ストライキに突入しました。3月の始めからは連日、建物の外でピケをはり、学生や大学関係者にピケットライン(監視線)を越えない(大学構内に入らない)ように訴えています。しかし学生は普段通り授業があり、大学側からも、そして組合側からも、普段通り授業に出ることが求められているものの、TAの立場を支持する学生は、授業に出るか、出ないかの決断を迫られることになりました。

私はこれまで、日本でストに出会うことはほとんどありませんでした。時々、利用していたバス会社がストの予告をしていたことはあったものの、実際には交渉は合意に至り、ストは回避されていたようでした。バスがストをしたらもちろん困りますが、迷わず違う方法で行くしかありません。(その時には「迷惑だな」と思わず、労働者を支持する立場でいよう…と以前から考えていました。)しかし、まさか今回、自分が何らかの決断を迫られる立場に立たされることになるとは…。

私自身は、雇用や賃金の安定は生活に直結しており、貧困の問題は福祉に関わる者が積極的に考え行動していくべき中心的なテーマの一つであると考えています。また、日本の大学で何年もTAをしていたり、非常勤でいくつもの仕事を掛け持ちしていたこともあり、非常勤雇用の不安定さが身を持って分かります。以前、日本で勤務していた大学でTAの労働条件が大きく変更された時には「不利だな」、「おかしいな」と思いながらも行動に移したことはありませんでした。そんな経験があるため、基本的にはTAの組合を支持する立場にいます。しかし今回、私は(組合側からも言われていた通り)学生として授業に出る、という選択を取りました。

今回のストで、学生は大きな葛藤を抱えることになりました。ソーシャルワーカー(にこれからなる身)として、組合の主張を支持したい。でも学びの機会も失いたくない、学費も無駄にしたくない、と。また学生の間だけでなく、組合員であるTA自身も学生の学びの機会を奪っているのではないかと葛藤を抱えていているそうです。今回、ストを通じて労働者の権利、学生の権利、働くこと、学ぶこと、そして大学そのものと経営について考える機会となりました。日本でこのようなトピックを真剣に考える機会がどのくらいあっただろうかと感じました。

いずれにしても、今回のストで、学生やTAはストが長引くにつれて葛藤やストレスが大きくなっていったのです。(次号に続く)