Return to site

1年目の実習を終えて(2)福祉の民営化

ソーシャルワーク・タイムズ vol85 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.31

· 大学院の授業,実習,非営利組織

先週は実習中にもたくさんの移民の方にお会いし感じたことをお伝えしました(移民向けのサービスでないのに関わらず、です)。就労支援の現場でも社会構造として移民・難民の方の生き辛さがあることを知りました。

もう一つ実習で印象的だったことは、非営利組織の運営やサービス内容が行政の方針に大きく左右されるということです。

カナダは、日本よりずっと福祉サービスの民営化が進んでいます。子ども関係、高齢者、障がいなど福祉に関わるサービスのほぼすべてが民営化されています。それらは州や市からの委託金、補助金や助成金、また企業や個人の寄付、事業収入で運営されています。

その中でも大きいのは市からの委託金・補助金です。委託金や補助金はプロジェクト事に単年度、長くても数年での支給となるため非営利組織の運営が不安定になっています。

例えば、私の実習していた団体の就労支援のプログラムは、参加人数によって委託金の金額が支給されます。年間の目標人数も決められており、参加人数によってもらえる金額が変わるため、スタッフは参加者集めや、途中で辞める人が出ないように必死です。

ここだけの話ですが(笑)、初回面談をすると一人◯円などと支給される金額が細かく決まっています。またプログラムの種類によっては、その後の就労の有無が金額と関係ないこともあるため、その人の目標やキャリアとずれていると分かっても、とにかくどんな人でもプログラムに受け入れるという場合もあります。プログラム自体は有用かもしれませんが、本当に利用者のためになるという視点で提供されているかというと疑問が残ります。

また、州や市の方針はすぐに変わることも分かりました。スタッフは市の方針に合わせて、数年(短い場合だと1年)で提供するプログラムの内容を変えなければならないと言っていました。実際に、以前、外国での資格所持者がカナダで就労するための移行プログラムや、中国語でのプログラム、就労準備のためのプログラム(ソーシャルスキル)など様々な内容のものを提供していたそうです。

また、私の実習中には、来年度以降実施する可能性のあるプログラムとして、英語のクラスと職業訓練を合わせたものや、教育省が行うパイロットプログラムに応募するなどの準備をしていました。

このようにカナダの非営利団体の多くは、市や州の省庁に提案を行い、それが無事に通り予算がついたら事業ができる、また新しい人材を雇うことができる(あるいは今の人材を雇い続けることができる)、という流れになっています。助成金申請や新プログラムを担当する職員はとても大変ですが、組織が生き残るためにも必要なことであると考えられています。

民営化の利点もあります。その一つは事業の柔軟性と、社会の課題の発見です。助成金、補助金を取るには何か新しいことを提案していかなくてはなりません。そのために社会の課題を探して、直接的・間接的な事業を提案することで資金を得て実施するということをせざるを得ないような仕組みになっているのです。国や自治体が直接実施するよりは、民営化されていた方が柔軟にそして社会の現状に即した事業ができるという利点も、今回の実習でよく理解できました。

しかし、カナダでは民営化が行き過ぎている感があるように思いました。非営利団体が「社会の課題を解決する」ために運営されているというよりは、民間の非営利団体が、自分たちの組織が生き残る為に行政サービスを代行しているような状態も見られたからです。

私の実習先は100年以上の歴史がある非営利団体で、子ども、移民、生活保護、ホームレス支援など地域に密着した組織でしたが、財政が安定しているとは言い難いものでした。財政の関係でパートタイムでしかスタッフが雇えなかったり、一時的にセンターの一部機能を閉鎖せざるをえなかったり。職員さんは他の組織よりも給料が安いことをこっそり教えてくれました。(後日談ですが、私が実習を終えてしばらくしてから、私のスーパーバイザーはより待遇のよい組織に転職したそうです。それでもスタッフの補充がないんだとか。そのため他のスタッフの仕事量は増えてしまい…。その方も「転職活動するかも…」とのことでした。ちなみにこの就労支援などを専門とする職で、一番待遇がいいのは市の生活保護のケースワーカーさんだそうです。公務員なので当然ですね。日本では公務員も非正規の方がとても多いですが。)

日本でも今後民営化がより一層進むと思います。例えばハローワーク(公共職業安定所)の業務は、既に人材派遣会社に委託されています。カナダでは非営利団体しか社会的な公共サービスは委託できないようになっているのですが、日本のように営利企業が福祉の委託事業や補助金が取れるようでは、組織力や営業力のある大きな組織(多くは営利企業)が勝ち残っていくでしょう。

現在、日本でもNPO等の非営利団体が活躍しつつあり、若者の就職先にもなってきました。しかし日本の現状はというと、カナダでの現状よりもずっと不安定で低賃金、長時間労働でやりがいの搾取…という働き方をせざるを得ない状況です。もし補助金や委託金(や事業収入)が、非営利団体が確立していく&生き残る方法だとしたら、組織が大きくなるしか方法がないのかしら…と少しだけ暗い気持ちにもなります(もちろん組織には、ある程度の組織力と機動力が必要ですが)。そしてそれは、非営利団体が政府の大きな方針に、大きく左右されることにもなります。

今、日本で叫ばれている「民間の力を活用する」というのはとてもいい事だと思います。しかし既に民営化が進んだ国の現状をよく見る必要があります。ここから日本も学ぶことができ、よりよい方法で社会問題を解決できるのではないかと感じています。その結論は簡単には出ませんが、これから少しずつ考えていきたいと思います。

この2回で、私が実習で感じたことが少しでも皆さんに伝わったら幸いです。

All Posts
×

Almost done…

We just sent you an email. Please click the link in the email to confirm your subscription!

OKSubscriptions powered by Strikingly