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オンタリオ州の性教育と反発(後編)

ソーシャルワーク・タイムズ vol82 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.28

· 小学校,児童福祉,教育制度

前回、2015年9月から保健体育で教える内容のガイドラインが新しくなり、性教育の内容が変わることについてお伝えしました。

新ガイドラインの発表後、一部の親から「価値観に反する」「認められない」「早すぎる」「過激すぎる」等の反対運動が巻き起こりました。一部のマスコミが新しい性教育の内容を過激に報道したこともあり、親たちが子どもを休ませて授業をボイコットしたのです。

特にセクシャルマイノリティや同性婚を「罪」であると教えるイスラム教徒や、一部のキリスト教徒の反発が大きかったようです。以前お伝えした通り、トロントの住民の5割以上がカナダ国外で生まれた人です。中東からの移民など、イスラム教徒も数多く住んでいます。

イスラム教徒が多い学区では、クラスの半分以上の子どもたちが休むという事態にも発展しました。子どもに学校を休ませる方法を取るとは、かなり強い主張の仕方だなと感じましたが、保護者の主張は、それぞれの宗教的な教え・信条に基づいており必死です。また、カナダでは子どもの教育を家で行う「ホームスクーリング」が認められているなど、子どもの教育の責任が親にあると考えられていることも影響しています。このようなカナダの教育制度の下、多民族の住むトロントだから起きた強い反発とも考えられます。

先日参加した説明会で強調されていたのは、これらの授業は「独自の価値観を否定するというものではない」ということです。すなわち、授業ではあくまで「体と心に関する正しい知識」や「カナダで同性婚やパートナーシップなど、様々な家族形態が認められている」ことや「現実としてLGBTQなど性的マイノリティと呼ばれる人々がいる」という事実を学びます。これは、子どもやその親が「どのような価値観を持つことも可能であり、それを否定する意味合いはない」ということでもあるのです。

そのため、親や本人が希望した場合には、校長や担当教員に相談した上で、この時間だけ授業から抜けることも可能だそうです。

カナダは(アメリカの多くの学校も)クラスで何を教えるか、どのように教えるかについては教員の裁量が大きく、保健体育の指定の教科書もないため、この授業が実際にどのような内容になるのか、どのように教えるのかは教師によって異なります。

ちなみにこのガイドラインは公私立問わず、オンタリオ州のすべての学校に適用されるものです。トロントにはトロント教育委員会(TDSB)の他に、カトリック教育委員会(TCDSB)があり、カトリックのキリスト教の教えに基づいた教育を行っている公立の学校があります。これらの学校で宗教的な制約がある中、どのように新しい性教育が教えられるのかについては個人的に興味があります。

なお、カトリック教育委員会については、公立学校で特定の宗教に基づいた教育を行うことや、カトリックの信徒とその子女のみに入学を許可させることの是非が長い間議論されています(国連から一部の宗教だけを優遇するような制度として勧告を受けたこともあるとか…)。しかし、カトリックの公立学校が生まれた背景には開拓時代から続く歴史的、フランス系とイギリス系の民族の複雑な関係があったり(数の少ないフランス系民族を守る)、1867年に制定された憲法でカトリック信徒への公立教育を保証すると決められていることを理由に簡単には廃止できないため、現在までこの制度が存続しています。なお、校長の判断でカトリックの信徒でなくても入学できる学校もあります。

性教育には個人の価値観、宗教、信条などにより、様々な意見があります。性教育は学校ではなく、親の責任ですべきであるという意見もあります。

しかし、親が適切な知識を伝えないだけではなく、例えば、親に性的虐待を受けている場合、それが「普通のことである」と教えこまされたり、口止めされるケースもあります。LGBTQ等の性的マイノリティと言われる子どもは、親にも友達にも自分のアイデンティティを打ち明けられず孤独感を抱えやすく、うつの傾向や自殺未遂の割合が高いというデータもあります。このような場合、一体誰が子どもに自分自身の体や心を尊重することを教えるのでしょうか。

性やジェンダーの正しい知識を身につけることは、健やかなアイデンティティ形成につながります。またきちんと性教育を行うことは、子どもの性体験の時期を遅らせ、望まない妊娠や中絶を減らす結果につながっているという研究結果が出ています。このように、教育の内容やその方法は、子どもをとりまく社会の変化や急速な技術の進歩に応じて、柔軟に変化していかなければならないのかもしれません。

現実の様々なリスクから「子どもを守る」、心身を健やかに育むという視点で考えられた新しい保健体育のガイドライン。「子どもを守り育む」という視点でみると、保健体育や(性)教育と福祉は深く関連していると捉えられるのではないでしょうか。

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