男性のHPVワクチン無料接種開始

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol. 76 ソーシャルワーク・タイムズ vol.138

· 制度政策

カナダでは2007年から8年生(中学2年)の女子を対象にヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの公費での接種が可能でした。それが2016年秋から7年生(中学1年生)に引き下げられ、女子だけでなく男子もHPVワクチンを無料で接種することができるようになりました。

日本では現在、積極的接種の推奨を中止していますが、カナダでは接種することが推奨されています。

(今回は副作用等の議論は横に置いておきます。カナダやWHOではワクチン接種と副作用の因果関係は否定されています。)

またトロントでは、この秋から、このHPVワクチンをMSM(Men who have sex with men/男性間での性交渉者)も無料で接種できるようになりました。対象は9歳から26歳までのゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー、その他のMSMなどを自認する人です。

これらの接種対象拡大の理由の一つは、MSMの人は様々なリスクが高いという研究結果が出ているためでしょう。コンジローマはヘテロ男性の3倍、肛門癌は20倍のリスクがあるそうです。

もう一つ大きな理由に、セクシャルマイノリティの当事者や当事者団体の発言力の大きさがあるのではないかと思います。

トロントはLGBTなどといわれる性的少数者の当事者団体がたくさんあり、毎年6月には差別の根絶と公平・公正な権利を訴えるレインボーパレードが行われます。今年のパレードには首相として初めてトルドー首相も参加し話題となりました。

LGBTに関しては、トロントでは同性婚と同性パートナーシップが認められていることからも、それに付随する様々な権利が認められています。また多様な家族の在り方など、小学校から教えられます。

もちろんゲイやトランスジェンダーなどの人に対するヘイトを言う人もいます。またイスラム教徒もカトリックなどで「宗教上、受け入れられない」という人もいます。しかし、宗教上の教えや個人の価値観と、実際に法律で認められている権利を保障することは異なります。

LGBTの問題に関わらず、権利と自由な発言が保障されている安心・安全な環境で初めて、自分の権利を主張できる雰囲気、相手の人格を否定せずに議論できる雰囲気などが生まれ、当事者と当事者団体の発言力が増すのではないかと思います。

安心・安全を感じることは、当事者にとって非常に大切なことではないでしょうか。これは決して目に見えるものではありませんが、安心・安全が保障されなければ、当事者が権利を主張するどころか、専門職としてサポートを行うことも困難になります。

社会福祉に関わるものとして、今一度基本に立ち返って、当事者の安心・安全な環境を作れているか、逆に脅かすことがないか考えていかなくてはと思います。