うつ・依存症の親をもつ子どものための絵本

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.95 ソーシャルワーク・タイムズ vol.161

· メンタルヘルス,児童・教育

Centre for Addiction and Mental Health (CAMH)は、トロントにある北米最大規模の精神医療センター。直訳すると「依存症とメンタルヘルスのセンター」です。

治療や研究はもちろん、アドボカシー(啓蒙)、情報提供、ソーシャルワーカーによるカウンセリングや当事者や家族向けのサポートグループなど、多岐にわたるサービスを提供しています。

CAMHではメンタルヘルスや依存に関する理解を促進するため、様々な本やパンフレットを出版しています。その中に、うつやアルコール依存を抱える親をもつ子ども向けの絵本が出版されているというので取り寄せてみました。

1冊はうつを抱える親をもつ子どもの「Can I Catch it Like a Cold? (風邪みたいにうつるの?)」、もう一冊はアルコール依存のある親をもつ子どもを描いた「Wishes and Worries (望みと悩み)」。

(詳細はリンク先へどうぞ。本を購入することもできます)。

日本でも同じようなテーマの絵本が出版されています。日本の本とカナダの本を比較しながら読んでみると、実にカナダらしさ(?)を感じる内容でした。今日はこの本について紹介してみたいと思います。

この絵本の主人公は小学生。お父さんがアルコール依存症またはうつを患っているという設定です。

どうしてお父さん(どちらの本もお父さんでした)は怒るの?/元気がないの?私が悪いの?これからお父さんや私の家族はどうなっちゃうの?成績、スポーツ、友達との関係にも影響がでてきていて…。私はどうしたらいいの?」など、子どもの疑問に、絵本の中のカウンセラーや大人が答えています。

実際に親が依存症であったりメンタルヘルスに問題があったりすると、子どもに大きな影響がでます。一つは親が適切な養育ができない、虐待やネグレクトにリスクがあがるということです。貧困の問題とも関係しています。そして子どもの精神面などにも大きな影響を及ぼします。さらに、子どもは親や兄弟などのケアを担わされたり、本来、大人がやるべき役割を担わされることもあります(役所や病院などとのやりとり等)。いわゆる「ヤングケアラー」です。

絵本の中では「問題の渦中にあるとき」、「改善しつつある時」、「前の状況に戻ってしまうとき」など、時間の経過が描かれているので、今後どうなる可能性があるのかが想像しやすくなっています。

この本の特徴は、出てくる子どもの周囲にたくさんのサポートがあることではないでしょうか。

これらのサポートは、母親、友人、教員、スクールカウンセラー、医師などで、絵本の中では大人と出会い、自分の気持ちや些細な疑問について話すことが推奨されています。その些細な疑問の一つがこの本のタイトル「Can I Catch it Like a Cold? (うつって風邪みたいにうつるの?)」なのです。

本の中で友達は「うちのお母さんも、前に似たような状況になったことがあるよ」などと教えてくれ、カウンセラーは「おばあちゃんに話したり、キッズヘルプフォン(子ども電話相談)に電話をして、自分の気持ちや悩みを話すことができるよ」、など具体的にどうすればよいのか情報を提供しています。

本の中ではさらに、周囲の人が「あなたは悪くない」「お父さんの状況は、あなたの『問題』ではない」「今の家族の状況は病気のせいなんだよ」というメッセージを伝えていきます。

病気については、「薬や専門家の力で良くなる」のだということに加えて、今後再発するかもしれない(けれどまたサポートがあれば良くなる)ことを伝えていたのは、とても正直だと感じました。

この本は、実際に子ども自身が読むこともできますし、親やスクールカウンセラー、ソーシャルワーカー、学校の先生などが使用することも想定されているのだと思います。

最後のページは大人向けの説明があり、なぜ子どもと依存症や精神疾患について話すことが大切なのかについて書かれています。さらに専門家の注意事項として、「親が子どもの心身に危害を与えている可能性があるなど、危険と思われる場合には児童相談所に通報してください」とも書いてあります。

同様のテーマで日本で出版されている、絵本を読んでみました。

大きなメッセージである「子どもの不安な気持ちに寄り添う」「お母さんの今の状況は病気のせい」(病気なのはお母さんでした)という大きなテーマは共通していました。

しかし、日本の絵本の登場人物が「ぼく」、「病気のお母さん」と「説明するお父さん」(週末におばあちゃんの家にいくこともある)だけだったところが大きな違いだと思いました。

カナダでは、メンタルヘルスの問題をオープンに話そうという動きが生まれています。その一つがカナダ最大の電話会社Bellが2010年から行っているLet's Talkというキャンペーンです。

メンタルヘルスに関してもっとオープンに話し、助けあうことができる社会をつくろうというもので、基金を作ってBellの売り上げの一部を地域団体や病院などメンタルヘルスに関わるプロジェクトへの助成金として還元しています。(Bell Let's Talkについてはまた改めて)

メンタルヘルスの問題だけでなく、いろいろな社会問題を、家族内だけで抱えて解決しようとするのではなく、社会でオープンに話し、当事者はもちろん、家族など大きく影響を受ける人をも支え合えるような仕組みができればよいなあ…と改めて感じました。