オンタリオ州の性教育と反発(前編)

ソーシャルワーク・タイムズ vol81 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.27

· 児童・教育

トロントではつい数週間前まで今年は冷夏かと思われていましたが、先週から暑い日が続いています(ただし日本ほどではないです)。とにかく室内が寒いため、私は実習先でいつも長袖を着ています。カナダではスーツを着ているのは一部の企業(金融系など?)のサラリーマンだけ。多くの人がカジュアルな格好で働いているので、クールビズなどという言葉は必要なさそうです。

さて、今週と来週は、福祉とは少し離れるかもしれませんが、オンタリオ州の新しい性教育の内容についてお伝えします。

オンタリオ州では2015年9月の新年度から新しい保健体育のガイドラインを採用することになりました。保健体育ガイドラインには性教育についての内容も含まれるのですが、それが一部の保護者に大きな反発を巻き起こしています。

先日、子どもたちが参加しているサマーキャンプを主催する中国系キリスト教会で、現役教師による説明会があったので聞いてきました。

それによると新旧ガイドラインにおける性教育の内容の大きな違いは、これまでは教師の裁量で「教えられる内容」としていたものを、来年度からは小学校1年生から「教えるべき内容」として明文化されたことです。

新ガイドラインの中の「教えるべき内容」に指定された内容で、賛否の議論がある内容は、次のようなことが含まれます。

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・1年生:体の『全ての部分』について知る

・2年生:ライフステージごとの成長と体の変化を知る

・3年生:ジェンダーアイデンティティ(性自認)や性的指向を含むダイバーシティー、同性婚やパートナーシップを含む様々な家族形態を知る

・4年生:思春期の体と心の成長について知る

・5年生:リプロダクション(精通・月経を含む)について知る

・6年生:メンタルヘルス、セルフイメージ、ジェンダーを含むアイデンティティを考える。健康的な関係性とは何か

・7年生:性行為を遅らせるための知識。避妊や性感染症について知る

・8年生:肯定的なアイデンティティ形成のため性自認、性的指向、性別表現を考える

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これらの内容、皆さんはどのように思われますか。

早すぎでしょうか。過激すぎでしょうか。

このガイドラインの改訂の理由には、現実に子どもは様々なリスクに囲まれているという現実があります。この10年でタブレットやスマホの普及で、子どもがインターネットなどを通じてポルノなどから間違った性の知識を得やすくなっています(カナダの学校ではスマホやケータイを持ってくることは禁止されていませんし、すべての公立学校にはwifiがあります。学校内での使用は学校によって禁止されているところもあります)。

新しい性教育と保健体育のガイドラインは、それらの危険から子どもを守り、健康的な体と心の成長、そして肯定的な自己像(セルフイメージ)を持つことを目的にしています。

保健体育ではその他、運動の仕組みや健康の大切さもカバーします。また、食育(栄養)や、薬物やアルコールなどの依存症、HIVなどの疾病やメンタルヘルス、友人や恋人との健全な関係性、いじめ、精神的サポートと精神的安定の重要性などについても、ディスカッションなどを通じて学びます。性教育はその中のほんの一部分なのです。

この新ガイドラインの発表後、性教育の内容が過剰にマスコミに報道されたことも相まって、一部の親から強い反発にあいました。ガイドライン改訂への反対運動が起こり、親が子どもの学校を休ませ、授業を何日もボイコットしたのです。

一体、なぜこのような激しい反対運動が起こったのでしょうか(後編に続く)。

オンタリオ州の保健体育の新ガイドライン(1〜8年生)はこちら(英語)。