虐待加害者(父親)向けプログラム

ソーシャルワーク・タイムズ vol107 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ  vol.51

· 制度政策,児童・教育

カナダでは「ジカ熱」が大変なニュースになっています。日本でも報道されていると思いますが、ジカ熱とは蚊を媒介とした感染症で、中南米で急増している小頭症の乳児との関連が指摘されています。妊娠を遅らせることを推奨する国も出てきているそうです。

カナダではジカ熱は広まらないだろうとは言われているものの(寒いから?)中米はカナダ人に定番の旅行先。暖かく、比較的近くて安い国々は、海外挙式や新婚旅行、家族旅行先として大人気なのです。現在、旅行会社では妊婦さんなどに渡航先を変更するサービスも始まったのだとか。ブラジルはこの夏、オリンピックもあるので世界への拡大が心配ですね。

さて、本日紹介するのは子どもへの虐待や、パートナーへのDVをする父親向けのプログラム「Caring Dad」についてです。

カナダやアメリカなど北米ではグループワークが盛んで、大学院でも「グループソーシャルワーク」が必須科目です。日本でも近年広まってきている親向けグループ「Nobody's Perfect」もカナダ発祥です。

この「Caring Dad」は、父親が虐待や暴力的な行為とその影響を認識し、意識と行動を変えることにより、親としてふさわしい振る舞いができるようになることを目指すグループワークです。

このプログラムは、加害者の更正プログラムを実施していた非営利組織と、トロント大学の教育学・心理学の教員で共同開発されました。現在はオンタリオ州はもとより、イギリスやヨーロッパ各地で実施され、ファシリテーターの養成講座があるなど、各地に広がっています。
トロントのCAS(児童相談所)でも、2012年からこのプログラムを実施しています。

期間は1タームで17週間(セッションは1週間に1回)。
グループセッションで行う内容としては次のようなものがります。
・子どもの健全な成長と、暴力の影響について学ぶ
・よい父親、悪い父親について知る/自覚する/行動を改善する
・自分の感情を理解し、適切に表現する方法を学ぶ
・自分の親と自分の関係を振り返る
・適切な言葉の使い方の練習

また毎週、家で行う「ホームワーク」が出され、子どもが好きなものは何か、子どもが自分についてどう思っているのかなど、子どもと触れ合ったり、対話する機会を持ちます。ファシリテーターとの個人セッションも数回あります。

私が印象的だったのは、「神話(嘘)」というワークの項目。DVをしている父親の「神話」的行動が列挙されています。例えば…
・よい夫でなくても、よい父親になれる(というのは嘘)
・子どもは夫婦間の喧嘩を分かってないし、自分のせいだとは思ってない(というのは嘘)
・子どもがショックを受けても、しばらくしたら忘れる(というのは嘘)
・夫婦間の喧嘩には子どもは関わってないので、影響はない(というのは嘘)

などです。

このプログラムの効果としては、次のようなことが報告されています。
・虐待行為や子どもを「コントロール」するような(管理的な)行動・言動の減少
・子育てのストレスの軽減
・気分の落ち込み、不安の軽減
・子どもやパートナーへの良い影響

このプログラムは、本人の希望で参加する人だけでなく(実際には少数)、児童相談所のソーシャルワーカー、パートナーやその弁護士から要求されて参加する人や、DVや虐待の罪で収監されている人向けに刑務所でも実施される場所もあるそうです。

 

これまで実施する非営利団体や児童相談所の予算で実施されてきたのですが、その効果や必要性を訴えてきた結果、州からの補助金がつくようにもなってきているそうです。ですが、限界もあって…。
次回は虐待加害者向けプログラム拡大の理由と、グループソーシャルワークは日本で受け入れられるか、について考えたいと思います。

Caring Dad ウェブサイト: http://caringdads.org/