カナダの児童福祉: 施設ではなく家庭で

ソーシャルワーク・タイムズ vol69 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.15 より転載

· 児童・教育

先週はカナダのオンタリオ州で児童相談所のような役割を担うのが「CAS」という非営利組織であることをご紹介しました。今週はカナダでの子ども福祉の特徴について考えたいと思います。CASは子どもの保護や里親さんの手配や養子縁組などを行っています。

<子どもの保護:施設ではなく里親で>

カナダの子どもの福祉で特徴的なのは、子どもを保護する場合「施設への入所を可能な限り避ける」という点です。カナダでは子どもが施設等で過ごすことは、子どもにとってマイナスの影響を及ぼすと考えられており、なるべく家庭的な環境で養育するべきであると考えられています。

そのため、トロントと近隣の市を含めたCASトロントの管轄内で、2014年の時点で里親のもとで暮らす子どもは887名です。これに対して施設で暮らす子どもは201名。なお「施設」といっても大規模な施設ではなく、グループホーム等の小規模グループケアで比較的年齢の高い子などが中心となっています。

さらに、本来はCASで扱うケースは16歳未満ですが、支援が必要とされた場合には、18歳まで里親さんや住居などのサポートを受けることができます。この制度を利用して16歳〜18歳で支援を受けながら独立して暮らしている人も382名います(※1)。また経済的支援など、希望者には21歳まで受けられる制度もあります。

このように広く行われている里親制度ですが、近年は「親族里親」を積極的に採用するようになってきました。これは、子どもが全く知らない家庭に行くのではなく、なるべく子どもの親族が養育できるように促すものです。その方が子どもと養育者の間に情緒的なつながりが生まれやすかったり、子どもにとってより安心な環境で過ごすことができると考えられているためです。

東京都では平成25年度末で、里親に委託されている児童は338人、児童福祉施設に入所している子どもは3,719人です(※2)。施設にいる子どもの方が10倍以上多くなっています。

東京都は「養育家庭(ほっとファミリー)」や養子縁組を目的とした「養子縁組里親」などを呼びかけ、里親を増やそうとしています。しかし、2014年に養育家庭に登録しているのが457家庭に対し、実際に委託されているのが262世帯、養子縁組里親に登録している家庭205に対し、委託児童が26人と、マッチングが難しいのか、なかなか活用されていない様子も読み取れます。

なお、CASが子どもを保護した場合、親には2年間の猶予が与えられ(2歳以下は1年)、その間に環境や関係に改善がみられた場合には、子どもは家庭に戻ることができます。逆にその間に親の養育能力や環境が改善しない場合には、親の親権が剥奪され社会的擁護の対象として「Crown ward(クラウンワード)」と呼ばれます。

なおCASは必要な場合には警察が同行し、強制的に子どもを保護することもできます。時には親からの虐待などのつもりがなくても、通報などにより子どもが保護される場合もあります。そのため、親が弁護士に依頼し、子どもをCASから取り返すための手続きを取ることもあるようです。

<トロントならでは>

トロントには多くの民族や人種が住んでおり、様々な言語が話されているので、ソーシャルワーカーにも様々な言語を話す人がいます。また、CASとのやり取りの際に通訳を頼むこともできます。

さらにカナダでは同性婚や同性パートナーシップが認められているので、同性カップルも里親や養子縁組をすることができ、CASもその仲介や支援をしています。

保護される子どもにもいろいろな人種、民族、言語の人がいるので、里親さんとのマッチングは大変です。養育される過程で健全なアイデンティティが育まれるように、人種や民族がマッチしており、さらに元の家族とも定期的に会えるように、なるべく今まで住んでいた地域の家庭に送りだすことが理想とされています。しかし、里親になる人は物理的にも精神的にも余裕がある人が多いので白人が多く、地域も郊外になりがちなのです。CASトロントに登録している里親さんだけではなく、他の民間組織や地域の CASとも協力して里親さんを探しをしているそうです。

最後に、カナダでは多くの人が「子どもの分野はお金(税金)をかけるべき(もしくは予算が多くても仕方がない分野である/減らしにくい)」と考えていることをご紹介しておきます。そのため、子どもの福祉は補助金等のカットが最もしにくい分野であるということです。

CASトロントの財政規模は、年間1億7千万ドル(日本円で約160億円)(※1)。一方、東京都の平成27(2015)年度予算では虐待や里親など「社会的養護への取組」の予算は64億円(前年比5億円増)でした(※3)。

このように、社会の中で「子どもを守る」という姿勢があるのです。これは、カナダでは社会構造として高齢化があまり進んでおらず、高齢福祉に財源を割く必要がなかったことも影響しているかもしれません。今後、人口動態の変化によってどのように政策および現場が変化していくのか見守る必要があります。

現在、福祉の現場はどこでも、助成金や委託金カットに直面していると言われています。そのため、情報発信や助成金への応募、スポンサー探しなどが積極的に行われています。CASもほぼ公的機関の役割を担う民間組織ですが、委託金や助成金が減らされてサービスを削減することのないように、様々なリサーチ、プログラム評価、レポートの出版、発表などが活発に行われ、その必要性を社会に訴え続けています。

※2 平成26年版 東京都児童相談所 事業概要 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/jicen/others/insatsu.files/jigyougaiyou2014.pdf