ソーシャルワークとカウンセリング(5)同意・協力を得る

ソーシャルワーク・タイムズ vol80 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.26

· メンタルヘルス

過去4回に渡って相談の場における3つの重要な要素「1. クライアントの課題の明確化を行う、2.目標設定を行う、3.実施する内容や手法について説明し同意・協力を得る」についてお伝えしています。先週は「2.目標設定」について、大きな目標と小さな目標をたてて目に見えるようにすること、目標設定をクライアント本人が行うことが重要であるとお伝えしました。

今週は最終回。「3.内容や手法についての同意・協力」を得ることの大切さについて考えてみたいと思います

実際のカウンセリングセッションに入る前には、クライアントと一緒に設定した目標に従って、カウンセリングの内容や手法の説明を行います。病院での治療についてのインフォームドコンセントのようなものとイメージしていただいてもよいかもしれません。

例えば「◯◯さんの目標を達成するために、これからのカウンセリングでは◯◯を目的とした、△△と言う手法を用いた内容を行いたいと思っています。△△とは、主に◯◯や××などを行います。家で***のような『宿題』をしていただくことも考えています。この場合、週(月)に◯回とすると、期間は◯カ月くらいを目安に考えています」など明確になるべく分かりやすく行います。

このような説明は現在、必ずしもすべてのカウンセリングセッションや相談の場で行われているものではありません。しかし、カウンセリングは、クライアント自身がその目的を理解し主体的に関わる場合に、よりよい結果が得られるという研究結果が出ています。そのため手法を説明し、同意を得る事は大切な過程の一つです。

といっても、専門的な説明にはクライアントは戸惑うこともありますし、期間も予め分からないことも多いので、セッションの中で随時説明して、同意を得ていくことが必要になります。

セッションの回数や内容はクライアントの目標によって変化します。例えば、授業で取り上げられていた事例(実際のセッションをビデオで見ます)では、パニック発作への不安を訴えるクライアントに対し、認知行動療法を用いて12回(3ヶ月)ほどで不安を和らげ、発作が起こりそうになった場合に自分で対処できるようにすることを目標にカウンセリングを行っていました。

認知行動療法の詳細な説明はここでは割愛しますが、ごく簡単に述べると、クライアントが自分の極端な考え方を認知したり、ものの受け取り方を変化させたり、日常の行動を変えることで、問題を解決したり精神状態を安定させる心理療法のことです。この事例では、クライアントが自宅で行う「宿題」として、パニックになりそうになった際の事を記録をする、呼吸法を練習し実施する、家族との関わり方を変化させる、自分を責める考え方を変化させるワークを行う、などがありました。

クライアントの目標が達成したり、状況が落ち着いたりするとカウンセリングは終了となります。それとは別に、様々な理由でカウンセリングを終了する場合があります。カウンセリングは、カウンセラーとの相性も大きいので、最初の1回から数回で来なくなる方もいますし、組織によってカウンセリングの回数が決められている場合、クライアントを他の機関につなぐことが主な目的となることもあります。

また逆にカウンセリングに長期間通う方もいます。専門家によっては、カウンセリングに長年通い続けることに対し、その効果がないからである、と否定的に捉える人もいます。しかし私は、必ずしもそうは思いません。

人が生きるということは、数ヶ月間のカウンセリングで目的が達成できるほど単純ではありません。クライアントの抱える問題はライフステージや周りの環境により変化しますし、カウンセリングの目標も変化していきます。一度カウンセリングを終了したクライアントが、また同じような主訴でカウンセリングに来ることもあります(これらに対しては、必ずしも本人のせいではないことを伝えることが必要な時もあります)。

さらに、普段生活している社会が戦いの場のようになっている場合、カウンセリングが唯一の安心できる場として、社会で生き抜くために継続して通われる方もいます。

クライアント自身がいくら努力しても、クライアントの生きる「世界」(社会、環境、人間関係など)は簡単には変わらないことがあります。むしろ現実にはその方が多いかもしれません。であるからこそ、ソーシャルワーカーはクライアントを支援する一つの手段として「社会」を変える役割を担っていく必要があります。クライアントが生きやすくなるためのお手伝いとして、心理的側面、社会的側面の両方を担うことができる、また担っていかなければならないのがソーシャルワーカーの役割であると思います。

(「ソーシャルワークとカウンセリング」おわり)