エビデンス・ベースド・プラクティス(3)EBPとEIP

ソーシャルワーク・タイムズ vol93 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.39 

· 大学院,制度政策

過去2回に渡って、科学的根拠に基づいた実践「エビデンス・ベースド・プラクティス=EBP」についてお伝えしました。
カナダでは実際に病院やカウンセリングを提供する場で、ソーシャルワークの実践にEBPを導入するところが増えています。ただ、EBPを導入するためには、スタッフへの研修や、勤務中に研究時間を確保する、PCやデータベースなどリソースの提供などが必要となり、一朝一夕にはいかないようです。

さて今回で、EBPは最終回。先週は、EBPの概念を導入する際に、留意しなければならない4つのうち、3つをお伝えしました。今日はその4つ目を考えたいと思います。

1. 北米の理論をそのまま持ち込めるのか
2. エビデンス(科学的根拠)をどのように捉えるか
3. その研究の信頼性について
4. ソーシャルワークの「成功」とは何か

【4. ソーシャルワークの「成功」とは何か?】

EBPは、不適切であったり無駄な支援を避けることができるため、費用対効果の面からも利点があると言われます。しかし先週も述べたように、通常EBPとして用いられる研究は計量分析であり、長い人生の一時だけを「結果」としてみています。例えばよくあるのは「◯◯療法を4週間やりました。結果は△△でした」というものです。しかしその後、その方はどうなったのでしょうか。

これは「ソーシャルワーカーやスタッフの支援における成功とは何か」ということに関わってくると考えています。
みなさんの行っている支援や援助の「成功」とは、いつ、誰が、どのような状態になることですか?

病院であれば、退院時?1ヶ月後?1年後、5年後?ご本人が人生の最期に「ああ良かった」と思うこと?もしくは家族の満足度でしょうか。時には組織側として入院(入所)日数を減らすこと、コストを削減することなどの成果を求められている場合もあります。

EBPを採用する場合、何を測るのか、どのような状態を成功とするのかについても、スタッフやワーカー(もしくは組織や行政)が取捨選択し、定義することになります。

日々、実践を行っているスタッフやワーカーは、様々な制約がありつつも、クライアントやご家族のことを考え、ベストな実践を行いたいと考えて、実行しているのではないでしょうか。要はそれをどこで区切り、どのような尺度を使用し、どのように言語化するか、というのがEBPなのだと思います。
 

なので私は現場の方に、どんどんその実践を発信&発表していただきたいと思っています。その積み重ねが「科学的根拠」になっていくのだと思うからです。

【EBPとEIP】

リーダーシップ論の授業で「組織でEBPを導入するには」というテーマで話していた際、興味深かったのは、教授が「EBPではなくてEIPと呼ぶべきだよね」と述べていたことです。「EBP=Evidence Based Practice科学的根拠に基づく実践」という言葉よりも、「EIP=Evidence Informed Practice、科学的根拠を用いた実践」の方が適切であるという意味だそうです。

一般的にEvidence BasedよりEvidence Informedの方が、科学的根拠が弱く、劣っていると捉えられがちなのですが、実際には「科学的根拠」が研究上であったとしても、最適な支援はクライアントさん毎に異なります。ですから、ソーシャルワーカーやスタッフは、数ある「エビデンス」の中からクライアントにできるだけ合うだろう支援を選択して、実践することになります。また「エビデンス」を、実際にどのように実践するかはスタッフやワーカー次第。それがワーカーの技の見せ所なのだとも思います。

そういう意味で、ソーシャルワークの場合はEvidence Informed Practice=「科学的根拠を用いて(ワーカーやスタッフが試行錯誤しながら行う)実践」の方が現実に即していると言えるのではないでしょうか。

今後、日本の社会福祉業界でもEBPやEIPが、より一層求められるようになる日が近いかもしれません。またデータを上手に集めたり、既存のデータを利用できることもとても大切になります。(実際に、何年か前には自殺率が高かった秋田県でデータを収拾し、実態を把握して対策を行うことで、その数を減らすことができました。今は全国で同様の取り組みが行われています。)

社会福祉の現場で活躍されている方も、計量分析の論文の読み方と、分析結果を批判的にとらえる視点をおさえておくことをオススメいたします。(EBPおわり)

 

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