トロントの子どもの貧困対策(3)

ソーシャルワーク・タイムズ vol 98子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol. 44

· 貧困,児童・教育

過去2回に続き、今週もトロントにおける子どもの貧困についてお伝えします。今回は団体運営と現金給付について。

私が最もすごいと思ったのは子どものための福祉サービス(北米では福祉サービス提供はほぼ民間団体が行います)の料金です。例えば、貧困地域と比較的裕福な地域の真ん中にあるアフタースクールクラブ(学童保育)。世帯収入に関係なく利用料は「年間50ドル(約4500円)」です。裕福な地区も含むのですが、収入証明もほぼ求められず一律この値段。申請するとさらに補助も受けられます。

なぜこの値段で運営ができるのでしょうか。そしてなぜ収入証明などを求めないのでしょうか。それは次のようなことが考えられます。

・サービス提供を行う「地区」を決めて、その地域全体を支援していくという考えがある。

トロント市は区画が細かく分かれており、貧困率の高い地域が比較的見えやすいために、そこに重点的にサービスを提供することが可能です。歩いて通ってくる子どもの中で、世帯収入が高い人がいても、誤差として考える…というカナダ特有の(?)ゆるゆるとした一面も見て取れます。

・実は、州や市の補助金の拠出が多い。(利用料に頼らない財源)

参考のためですが日本ので行っていた学童は区立の場合で、月約5000円+おやつ代でした(非課税世帯は補助あり)。運営費は保育料が約60%を占めています。一方、カナダの上記のアフタースクールクラブの運営費の内訳は、州や市の補助金が約40%、民間の助成金約11%、個人と企業からの寄付約11%、基金からの拠出約10%、利用料が約6%だそうです。この割合は団体によってかなり異なります。(利用料が月数十ドルというところも、もちろんあります。)北米は福祉サービスが貧弱で、政府はお金を出さないというイメージがあるかもしれませんが、カナダについては一概にそのようには言えません。

・企業や個人の寄付、民間の助成金が多い。

福祉サービスを提供する組織が、企業や個人の寄付を積極的に集めていることも一つの要因です。寄付は(福祉サービスの利用料も)税金が控除されるので集まりやすい事情があります。

<子どものいる世帯への現金給付>

カナダでも子どものいる家庭への現金給付があります。州によって異なりますが、オンタリオ州には次の4つがあります(収入によって金額は異なります)。

1. Universal child care benefit (UCCB)… 収入に関係ない給付。6歳以下は一人$160/月。7歳〜17歳は最大60ドル/月。なお、2015年1月から6歳〜17歳への支給が拡大し、6歳以下に対する金額も100ドルから160ドルに増加しました。

2. Ontario Child Benefit …控除後の世帯所得が$20,400以下の場合、子ども一人あたり最大111ドル/月が給付されます。(収入に応じて金額が変化)

3. Canada Child Tax Benefit(CCTB) …子ども一人あたり約97ドル/月。(収入に応じて変化。今回は世帯収入の平均値年収約60,000ドルを用いて計算)

4. National Child Benefit Supplement(NCBS)…低所得者層の子どもへの補助。年収$26,021以下の場合、最大一人目の子どもは190ドル/月、2人目は168ドル/月。それ以降は160ドル/月が支給される。上記の収入以上があると支給金額が減額。

このように、世帯収入によっては子どもひとりあたり最大月500ドルほど支給される場合もあります。

この現金給付の日本との違いは…

・ 世帯収入で計算されるので、一人親かどうかは関係ないこと。

・ 子ども一人当たりの金額で、基本は支給額×人数。児童扶養手当などのように2人目から大幅減額ということがない

・ 確定申告(カナダでは全員必要)を行うことで、該当する人全員に支給される。

毎月支給

・ ただし税金が高いと言われる。世帯収入の中央値60,000ドル/年の場合、連邦政府の税金が26%、州の税金が10%かかる。最大で42%となります。ただし税金から控除できるものも幅広いです(子や自分の学費、子育てにかかる費用など)。

現金での支給はここ数年、金額も増額し年齢もあがり、充実してきたようです。

ではトロントの福祉が全て良いかというと、そんなに簡単ではありません。

カナダの子どもの貧困に対する「福祉サービス」は、非営利組織や民間の慈善団体が、助成金や委託金、寄付金で行っています。カナダが「自由主義的福祉レジーム」に属していると言われています。政府は「福祉ビジネス」の環境を整える役割をこなし、福祉サービスの提供は民間が行うとされているのです。

最終回の次回は、民間が提供する福祉サービスの利点と欠点、貧困の根本的対策に本当に必要なことは何かを考えます。