福祉サービスを民営組織が提供することによる長所と短所

ソーシャルワーク・タイムズ vol71 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol 17より転送

· AOP,組織論

今、子どもたちの通う日本語授業補習校の運動会の開始を待ちながら、この原稿を書いています。世界各国には日本人の子どもたちが通う「補習校」というものがあり、トロントでも現地の学校の校舎を借りて、土曜日の9時から3時まで国語、算数、理科、社会を勉強しています。トロントの補習校は、幼稚部から高校まで全校生徒は約580人。小学部は3クラスある学年もあります。

トロントの補習校には日本に帰る予定のある人だけでなく、帰国の予定のない永住者が約半数いるそうです。この中にはカナダで生まれた子も多く、補習校は日本の教科書や行事を通じて日本文化を学べる機会にもなっています。運動会は半日で短いのですが、赤白組に分かれて大玉転がし、玉入れ、リレーなど日本の学校行事を体験できる貴重な機会。ちなみに補習校は週に1回で日本の学校と同じ内容を学習するので、進度が早くて、宿題もたくさん。もちろん子どもも大変ですが、宿題を教えたり、丸を付けたり、親の方が大変とも言われています(絶賛、実感中です…)。

さて、先週はトロントの生活保護Ontario Worksと雇用支援プログラムについて紹介しました。民間団体によって独自の内容を提案し、市から採択を受けた団体が委託を受けて運営するので、多種多様なプログラムが準備されています。

非営利団体が委託を受けて、沢山のプログラムが運営されていることは、利用者が沢山の選択肢の中から必要なサービスを選べるという利点があります。直接、就職につながるわけでなない「社会的スキル」を学べる準備プログラムもあります。しかしその弊害もあります。

まず、委託団体は参加者数を確保することが必要です。参加者は生活保護のケースワーカー(トロント市の職員)から紹介して送ってもらう必要があります。先日、ケースワーカーに向けたプログラム説明会に行ったのですが、かなりの数の非営利団体がブースを出し、パンフレットやチラシなどを作って「売り込み」をしていました。

トロントにはたくさんの就職のためのプログラムがあるため、ケースワーカーはプログラムの内容を良くわからないまま利用者に紹介してしまい、参加者が初回面談に来た際に「聞いた話と違うのでやっぱり辞めます」ということもよくあります。また多くのプログラムに参加しているものの、就職や進学にはつながらないという参加者もいます。

さらに委託団体には、参加人数や参加者の結果に応じて委託金が支払われるため、常に結果が求められます。参加者のうち何人が就職(や進学)をしたか、起業プログラムでは6ヶ月でいくら収入を得たかなどの調査があり、参加者が少なかったり、就職率が低いとその収入も少なくなります。そのため、プログラムを提供する非営利団体が、労働市場が求める人材を育成したりスキルを学ぶ場になってしまっているという弊害もあります。

もちろん仕事や収入は、「自立」した生活をする上でとても大切です(そもそも「自立」とは何かという疑問はここでは置いておきます)。

就職支援で関わるクライアントは、移民・難民、有色人種、様々な事情で退職や中退せざるを得なかった人など、「社会的なバリア」が多い方たちです。そのような方々に対する社会的バリアを取り除くことなく、非営利団体が、新自由主義経済が中心となっている社会が求める「人材」を育成する場になってしまっているのを見るのは悲しい思いがします。

非営利団体に限らず社会福祉に関わる団体や組織、ソーシャルワーカーには、クライアントを社会の既存の仕組みの中で支援するだけでなく、社会の仕組みそのものを変えていくという取り組みが求められていると考えています。

私が実習をしている団体は、移民、シニア、子どものサポートなどを広く扱っており、就職支援は事業の一部。団体全体としては、社会を変えていく活動を広く行っていることを信じたいです。このバランスは、実はとても難しいと思っています。

皆さんの関わる組織では、市場主義経済の「大きな流れ」にどのくらい影響されていますか?それとも、それに対抗するような「社会を変える」の必要性を認識し、それに向けて実践することができていますか?