ソーシャルワークとカウンセリング(1)

ソーシャルワーク・タイムズ vol76 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.22より転載

· メンタルヘルス

カナダのソーシャルワークや大学院の授業で特徴的だと感じるのは、ソーシャルワーカーは、カウンセリングをすることができるためにカウンセリング理論や技法について詳しく学ぶということです。大学院を卒業するとカウンセラーとして開業することもできます。学生の中にも将来はカウンセラーになりたいという人、大学で心理学を学び大学院からソーシャルワークにきたという人が半分くらいいます。私は特にカウンセラーになりたいという希望はなかったのですが、対人援助技術の一つであるカウンセリングを勉強することは対人援助職として、とても為になると感じています。

必修のカウンセリングの授業では、プロの役者さん相手にカウンセリングを練習をしたり(設定がとても細かく決められていて、演技も上手でリアルでした)、学生同士でロールプレイをしたり、自分のカウンセリングの様子をビデオで撮って書き起しをして分析したりしました。また、様々な手法のビデオを見て実際にアセスメントをしたり、自分がカウンセリングする場合に使用する手法を考えて議論したりします。

授業では他にも、脳神経学とカウンセリングとの関係、認知行動療法(考え方や行動のくせを認知して変えていく)、ナラティブセラピー(クライアントの語りを重視し新しい物語を紡ぐ)、サイコダイナミックセラピー(精神力動的精神療法。生い立ちなどに注目する)、カップルカウンセリング(夫婦やカップル向け)、家族カウンセリング(親と子ども向け)、エモーショナルフォーカスセラピー(感情に焦点をあてる)、アタッチメントフォーカスセラピー(人間関係の愛着に着目する)など、様々なカウンセリングの理論、特徴や技法を学びました。

現在「◯◯法のカウンセリングは、◯◯の症状に◯%の効果がある」など計量分析を用いた論文が多く発表されています。これに対してはこの測定方法が医療モデルに基づく考え方であること、人間の心理状態を疾病として捉えていること、クライアントを取り巻く多様な要素が加味されていないことなど、根強い批判があります。

実はソーシャルワークのカウンセリングで最も大切なのは、どの手法を使用するかよりも、ワーカーとクライアントとの間に信頼関係を築くことだと言われています。調査によると、カウンセリング結果に影響する要素は、カウンセリングの手法やテクニックが15%に対し、ワーカーとクライアントとの信頼関係が30%だそうです。さらにクライアント自身の友人・知人・コミュニティ・グループからの社会的・心理的サポートが40%と言われています。

そのためソーシャルワーカーの行うカウンセリングでは、一つの理論や手法に固執するのではなく、様々な中からクライアントに合わせて効果的だと思われる方法を組み合わせて取り入れた、自分自身のプロフェッショナルモデルを構築していくことが重要です。「モデル」とは一つの固定されたやり方ということではなく、クライアントに合わせて何をどのように提供するかを理解して、how toを自分なりに習得していることです。そして、大前提としてクライアントと信頼関係を築くことがあります。

日本ではソーシャルワーカーがいわゆる心理カウンセリングをすることは、あまりないかもしれません。しかし、クライアントさんと面談したり直接的なやり取りをする場面は多くあります。皆さんもその中で信頼関係を築くために、様々な方法を取られているのではないでしょうか。

介護の現場でも、ベテランのヘルパーさんでクライアントさんとの信頼関係構築やコミュニケーション、そして認知症の方への対応が上手だなと思う方には特徴があります。心理的な距離や間の取り方、クライアントさんの過去・現在・未来をつなげる考え方と対応、待つ時と介入するときの判断が素晴らしい方がいます。これに関しては、見ると明らかに「上手」と分かるのですが、ワーカーの経験や勘に基づく「暗黙知」による部分もあり、明文化されることが少なく、なかなか簡単に共有することが難しい部分でもあります。これらの個別のケースにおけるワーカーの判断や行動を導く思考が、もう少し分析されたり、共有されていけば良いなと思っています。

最後に脳の構造として勉強したことで印象的だったことをお伝えします。「ネガティブな記憶や思考は、油を敷いてない鉄のフライパンを使用する時のようにくっつき、ポジティブな記憶や思考はテフロンのフライパンのようにするりと取れてしまう」というものです。人はネガティブな思考に引っ張られたり固執しやすいのだそうです。ソーシャルワーカーとして、クライアントのポジティブな側面や強みを発見し、それを引き出し、伝え、そこを中心に支えていくことが求められてます。

実は教育学の大学院にも「カウンセリング」のコースがありますし、心理学の大学院には日本でいう臨床心理士、サイコロジストを目指すコースがあります。これらのカウンセリングとソーシャルワーカーが行うカウンセリングはどのような違いがあるのでしょうか。次回、考えてみたいと思います。